【10月21日 東方新報】中国のカップルがロマンチックに過ごす七夕の夜に、「真珠おばあちゃん」こと姚小芳(Yao Xiaofang)さんのライブ配信が始まったのは午前0時。いつもより2時間遅れだが、人気はいつもと変わらず、配信終了間際には数千人が視聴していたという。

 71歳の姚小芳さんは中国東部・江蘇省(Jiangsu)の山下湖鎮(鎮は日本の町クラスの自治体)で真珠販売に携わる。40年の販売キャリアを持つ姚さんにとっても、今では販促ツールとしてのライブ配信は欠かせない。その姚さんは、最近の真珠人気に目を見張る。

「今年の3〜4月から人が増え始めて6月まではすごかったよ。今は少し落ち着いたかな。値段が去年の倍かそれ以上になった。真珠のアクセサリーも多いよ」

 実は、姚さんが生業を営む山下湖鎮は、世界最大の淡水真珠の生産販売地。全世界の淡水真珠の7割を生産し、去年の売り上げは400億元(約8192億円)を超える。鎮内の販売センター、華東国際ジュエリーシティの客足は今年に入り10倍以上に増え、多い時には一日2万人にも達する。真剣に品定めをするバイヤーや代理購入をする若者が列を成す光景ももはや珍しくはなく、もともと午後7時までの営業時間を午前0時まで延ばした店も少なくない。

「最近は真珠ブームだ。値上がりは金より激しいよ」

 店主たちがそう話すような、山下湖に突如巻き起こった真珠ブーム。理由の一つに、もともと卸売業をしていた多くの人が、コロナ期間中にライブ配信を通じた販売に転戦したことがあるという。発信力と宣伝効果の増大、そして販路の拡大だ。

「現在、ライブ配信による営業収入は年間3000万元(約6億1439万円)。一日の売上が10万元(約205万円)以上になることもあります」

 そう話すのは親の真珠販売会社を継いだ二代目社長。会社では10人のキャスターを使い24時間ライブ配信を行なっているという。

 それとは別に、価格高騰の背景には供給減も指摘される。山下湖では、大量の肥料を撒くなどしたために環境汚染がすすんでしまった過去があり、近年は水質保護のために厳格な淡水真珠の「禁養令」が出され、養殖面積が大幅に縮小した。浙江省真珠協会のデータによれば、2019年に120万キロだった中国の真珠生産量は2021年には80万キロまで減っている。

 そもそも山下湖が真珠の大産地となったきっかけは、ほとんど偶然のようなものだった。半世紀前、常州市(Changzhou)からやってきた商人の道案内をしたのが、後に「初代真珠王」と呼ばれることになる山下湖の村人2人だった。

 その商人は、当時、家畜の餌にする程度でほとんど価値もないと考えられていた貝を、何故か買い求めた。その奇妙な行動の理由をしつこく尋ねる2人に根負けしたのか、商人は思いもかけない話を明かした。

 貝は真珠を産み、真珠は高価で取引される。商人は2人に真珠の価値ばかりか、貝を育てて真珠をつくる技術を教えて山下湖を去った。

 そのうち1人が、家の後ろの小さな池で貝を育て700グラムの真珠を収穫することに成功したのが1972年だった。その真珠は当時、豚10頭分の値段で売れた。

 その噂を聞きつけ、村人たちが次々と真珠の養殖を始めたのが、今日の世界最大の養殖地へつながったという。

 さて、真珠ブームは今後どうなるのだろうか。ある業界関係者は、真珠の価格が数年前の水準に戻るのは難しいものの、将来的には若干の上下があり価格調整が進むだろうと分析する。その上でこう話す。

「需要が減った時にバブルは終わります」(c)東方新報/AFPBB News