【9月15日 AFP】フランス政府は12日、公に議論することがタブーとされてきた近親姦(かん)に焦点を当てた、子どもに対する性暴力防止の啓発キャンペーンを開始した。

 キャンペーンでは、ソーシャルメディアや従来のメディア、屋外看板、映画館などにメッセージや動画が掲載される。また現在開催中のラグビーW杯フランス大会(Rugby World Cup 2023)のテレビ中継では、仏代表の試合のハーフタイムに広告を流す。

 シャルロット・コベル(Charlotte Caubel)首相付子ども担当副大臣はAFPに、交通事故防止キャンペーンのように「市民のみぞおちにパンチを食らわせる」強烈なキャンペーンにしたかったと説明した。「政府が啓発キャンペーンで『近親姦』という言葉を使ったのも、家族間の性暴力に言及したのも初めて」だと言う。

 政府が子どもに対する性的虐待防止の啓発キャンペーンを実施するのは2002年以来となる。

■「全市民の闘い」

 フランスでは毎年16万人の子どもが性的虐待の被害に遭っていると推定される。一方、支援団体などは成人の10人に1人が近親姦を経験したことがあるとしている。

 コベル氏は「これは、あなたが毎日、近親姦の被害者か加害者と顔を合わせていることを意味する」と指摘した。

 さらに、キャンペーンが終了する頃には「知らなかった」とは誰も言えなくなるとし、「全市民が、これは自分たちの闘いだと捉えるようにならなければならない」と語った。

 フランスでは、実の父母や子ども、祖父母、孫、きょうだい、異母・異父きょうだいと性的関係を持つ事は、成人同士の合意の上であれば合法とされる。

 だが未成年に対するレイプもしくは性的虐待で、加害者が近親者の場合は刑期が長くなることが多い。

 近親者同士の性交は欧州諸国を含む多くの国で合法だが、英国、オーストラリア、米国の大半の州では違法とされる。

 フランスの映画監督や作家、俳優は近年、これまで家族間の問題で、タブーとされてきた近親姦の被害を相次いで告発している。

 仏俳優エマニュエル・ベアール(Emmanuelle Beart)さんは今月放映されたドキュメンタリー番組で、自身が子どもの頃、近親姦の被害にあったことを明らかにしている。

 また、14歳の時に作家ガブリエル・マツネフ(Gabriel Matzneff)によってされたグルーミング行為をつづったヴァネッサ・スプリンゴラ(Vanessa Springora)氏による著作「同意」に基づいた映画作品が10月に公開される。

「子どもに対する近親相姦と性的暴力に関する独立委員会(CIIVISE)」の共同代表で判事でもあるエドゥアール・デュラン(Edouard Durand)氏はAFPの取材に、政府のキャンペーンは「勇気」があるとし、子どもの被害を重くみている点を評価した。

「政府が近親姦の存在を明言すること、これはプライベートな問題ではなく社会の問題だと指摘することが極めて重要だ」と述べた。

 政府は児童虐待被害者の支援グループへの資金援助を拡充する。また議会は、実子の虐待で有罪となった親から親権を剥奪する法律の整備に取り掛かっている。(c)AFP/Catherine FAY-DE-LESTRAC