【9月1日 AFP】ウクライナのイワン・イシチェンコさん(30)は、ロシアによる侵攻に立ち向かうため自ら志願して従軍した。だが前線に送られて1か月もすると、大金を払い、懲役刑のリスクを冒してでも逃げ出したいと思うようになった。

 イシチェンコさんは「参戦するまで、自分はスーパーヒーローだと思っていた。でもこの目で戦場を見て自分の居場所ではないと悟ると、英雄気分は消えた」と吐露した。

「脾臓(ひぞう)の辺りを撃たれた人を見た。痛みでのたうち回っていた。斬り落とされた頭部も見た。そういうことが全て積み重なり…これ以上は見たくないと思った」

 そしてイシチェンコさんはある日、母親以外誰にも告げずに脱走し、ウクライナを出国した。

 こうした行動に出たのは、イシチェンコさんだけではない。

 ロシアによる侵攻が始まると、ウクライナでは18〜60歳の男性の出国が禁じられた。多くの国民が愛国心をたぎらせた一方で、一部には社会的な圧力や当局の警告を受けても戦闘を拒否した人もいた。

 イシチェンコさんは5000ドル(約70万円)を支払い、政府関係者用のナンバープレートを付けた車にハンガリーとの国境の森まで送り届けてもらった。そして、国境フェンスに開いた穴をくぐり出国した。

 国境警備隊のアンドリー・デムチェンコ(Andriy Demchenko)報道官はAFPに対し、侵攻開始以降、検問所以外の場所から国外に出ようとした1万3600人が当局に拘束されたと明らかにした。また、偽造文書を用いて国外脱出を試み、拘束された者も6100人に上り、ほぼ全員が徴兵対象年齢の男性だったという。

 AFPは政府関係者に対し、徴兵逃れや脱走兵の人数を問い合わせたが、具体的な数字は得られなかった。

■「誰でも知っている」

 1月には法改定で罰則が強化され、徴兵逃れには5年以下の懲役、脱走兵には12年以下の懲役が科されることになった。

 ロシア軍に対する反転攻勢で苦戦を強いられる中、ウクライナ政府は同時進行で、徴兵逃れをめぐる汚職の取り締まりに乗り出している。

 8月には、全州の徴兵責任者が解任された。捜査当局によると、「ほぼ全ての州で大規模かつ組織的な汚職が発覚した」という。

 今年5月、5000ドルを支払って偽の診断書を入手し、兵役を免除され国外に脱出したという24歳の男性は、徴兵逃れの方法があるということは誰でも知っており、「皆、選択肢を提示できる友人や知人がいる」と語った。(c)AFP/Barbara WOJAZER and Helene DE LACOSTE