【9月1日 東方新報】東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所から海洋放出された処理水が、中国の世論に強い反対と不安を引き起こしている。日本政府が海洋放出を開始した8月24日、中国税関総署は「日本水産品輸入の暫時全面停止」を即時発表した。

 中国は日本料理店が世界一多い国で、8万軒近くあると言われている。海洋放出の影響は日本料理店にどのような影響をおよぼすだろうか。

 生活情報全般をインターネットで配信する「大衆点評(Dazhong Dianping)」のデータによると、中国国内の日本料理店の店舗数は7万9324軒で、客単価平均1000元(約1万9995円)の店が300軒あまりあり、大部分は北京市や上海市などの一線都市に分布しているという。

 駐中国日本大使館にも近い北京市朝陽区(Chaoyang)の好運街(Haoyunjie)は300メートルにも満たない通りだが、日本料理店が8店もある。

 この中の1軒の居酒屋を、8月29日北京時間午後5時に取材した。「食材は全て中国産」などの張り紙はなく、店員が忙しそうに開店準備をしていた。店主の話では、この店は開業して7年、以前は日本人客が多かったが今は中国人の方が多い。焼き鳥やすき焼き鍋の食材は全て中国産で、8月24日以降も来客はいつも通りだという。しかし店主が心配するのは日本から輸入の日本酒などが今後どうなるかだ。

 同じ通りにある日本料理店「高倉Modern Kaiseki(モダン懐石)」は客単価2200元(約4万3989円)、大衆点評のランキングにも入る高級店だ。この店の24日の予約は非常に多かった。「最後の日本料理を食べに来た」と話す客が多かったという。

 オーナーの陳(Chen)さんは北京に日本料理店を2店舗持ち、上海にも開店準備中だ。28日からは客足が目立って遠のき、平常時の40パーセントまで落ち込んだという。「お客の気持ちが大きく変化した。その気持ちは理解できる」と陳さんは話す。

 この店は日本輸入食材への依存度は大きくはないが、それでもウニやマグロ、また野菜や果物は主に日本産を使っている。高級日本料理はやはり日本産食材との縁は完全には切れない。それでも陳さんにはまだ多少楽観的な気持ちもある。「中日の問題は必ず解決できるはずです。両国は必ず友好関係でなければなりません」との思いを強調した。

 日本の農林水産省の漁業白書によると、2022年の日本の水産品輸出先のトップは中国で輸出総金額の22.5パーセントを占め、金額は6億400万ドル(約880億万円)だ。また香港は2位で19.5パーセントを占めている。

 中国のSNS「新浪微博(Sina Weibo)」で行われた「あなたはまだ日本料理店に行きますか」というアンケートが人気検索ランキングに上がった。結果は39万1000人がアンケートに応じ、そのうち21万2000人が「もう二度と行かない」を選択した。

 また香港メディアは、香港飲食連業協会幹部で日本料理店の責任者・陳強(Chen Qiang)氏の予測として「日本の食品への信頼感は、海洋放出前からすでに失われる傾向にあったが、今後の商いは3割近く落ち込むと思う」と報道している。

 2000億元(約3兆9990億円)の市場規模を持つ中国の日本食材業界にとっては劇的な影響が懸念される。広東省食品安全保障促進会の朱丹蓬(Zhu Danpeng)副会長は、「日本食材市場はおそらく大規模な倒産か転業の危機に直面するだろう」との悲観的ケースを予想する。

 日本食材市場や食品サプライチェーンの調整の行方を探るため、日本のメディア「東方新報(Dongfangxinbao)」は、中国で20年以上日本料理用食材の流通に従事している某日系大手企業を取材した。 

 その結果はなんと、「中国の日本料理用食材業界はとっくに『日本産ラベル』を外している」というものだった。取材に応じた周(Zhou)氏は「主に日本料理用食品の供給で、年商数億元(数十億円)です。上海には日本料理店がおよそ4000軒ありますが、そのうち3000軒はわが社から食材を買っています。商品は豊富で3000種以上、生鮮食品から調味料、厨房器具まで何でも提供します」と語る。

 日本の海洋放出の影響を尋ねると、周氏は「市場変化に応じて19年から食品原材料のサプライチェーンの調整を始め、今ではしょうゆなど調味料を含め99.9パーセントの食材が中国本土での調達が可能です」「日本料理がまだ十分には一般化していなかった90年代末から00年代初頭、日本企業は中国を日本食材の生産基地として、日本向けの輸出を始めていました。その後日本料理文化が中国に根付くに伴って市場規模が拡大しています」とこれまでの発展の経緯を説明し、「今回の海洋放出問題で影響を受けるのは、主に日本の輸入高級食材に依存する高級日本料理店でしょう」と答えた。周氏も『最後の日本食を味わう』という社会現象の頻発には注意を払っているという。

 周氏は強調したいこととして、「中国の消費者は、汚染水海洋放出問題があるからといって、全ての日本食品に対する信頼を喪失させる必要はないと認識すべきだ」、また「日本政府は、核汚染水海洋放出に関わるできる限り多くの透明な情報を提供して、周辺国の心配を軽減すべきだ」「中日両国には相互の連絡がもっと多く必要だ」という三つの考えをわれわれに語った。(c)東方新報/AFPBB News