■「異世界を見せてくれる」

 ツアー会社は通常、パキスタンの北東部ギルギット・バルチスタン(Gilgit-Baltistan)地域にあるアスコレ(Askole)を出発地とする旅行で2000〜7000ドル(約30万〜100万円)の価格を提示している。

 ポーターは荷物や食料、食事をする際に使うテントなどの運搬という過酷な任務を行うが、4か月間の夏のシーズンに1回のツアーで稼ぐのは約3万〜4万パキスタン・ルピー(約1万5000〜2万円)。ツアー会社が登山客に勧める機能性の高いハイキング用ズボンの値段を下回る額だ。

 パキスタンの7月のインフレ率は28%だった。このわずかな収入による購買力は減少している。ポーターの一人、サカワット・アリさん(42)は「この仕事では日常生活のための支払いさえ難しくなっているが、ここに来て一生懸命働くしか選択肢がない」とこぼした。

 だが、アリさんが山について語る時は、声のトーンが自然と明るくなった。「山はそれぞれ異なる色を持っていて、私に異なる世界を見せてくれる」

 ポーターはいずれも男性で、年齢層は若者から年金受給者まで幅広い。最大35キロの荷物を背負い、標高差2000メートルを登る。

 ベースキャンプに向け、雇い主の登山者たちはのんびりとしたペースで歩き、途中で数度止まって食事を取る。一方、ポーターたちが口にするのはチャイとチャパティのみで、プラスチックシートの下で一晩過ごした後、日の出とともに出発する。

 カディム・フセインさん(65)は「時には寒く、時には雨が降る。天候が厳しいこともある」と話した。「若い頃の私は怖いもの知らずだった。だが、今はもうかつてと同じ年齢ではない。私は壮年を過ぎてしまった」