中国の非識字者は3775万人 オンライン教室で「人生を変える」高齢者たち
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【6月22日 東方新報】「さあ、きょうもレッスンを始めましょう」
午後8時、中国北西部の寧夏回族自治区(Ningxia Hui Autonomous Region)に住む金霞(Jin Xia)さんが、いつものように自宅からオンライン授業を始めた。生徒たちは中国各地でスマートフォンを「黒板」に見立てて授業を聞く。いずれも字の読み書きができない年配の人たちだ。
南に2000キロ以上離れた広東省(Guangdong)に住む55歳の女性、黄土嬌(Huang Tujiao)さんも生徒の一人。8歳で父親を亡くし、母親に苦労して育てられたが、勉強する機会は得られなかった。大人になった今も道路標識すら読めず、銀行でお金をおろせず、公衆トイレで女性用がどちらかも分からない。インターネット上で大人向けの読み書き教室があると知り、しばらくは「詐欺ではないか」と疑って画面越しに講義の様子を眺めた後、教室に参加した。
半年がたち、黄さんは数百の単語を取得。「バス停の文字が読めるようになり、娘が驚いていました」と笑顔を浮かべ、「金先生は私の人生を変えてくれました」と感謝する。
今年で41歳となる金さんは若い頃、3年間だけ教師をしていた。「もう一度、教師をしたい」という思いを漠然と抱えていたところ、ネット上で大人の読み書き教室という取り組みを知り、自分も教室を開いた。「読み書きができない人は、時代から取り残された『島』のようなものです。そうした人たちの助けになりたい。それが自分の夢をかなえることでもあります」
中国ではインターネットの普及と共に、こうした大人向けのオンライン読み書き教室も広がっている。国内でも「字を読めない大人なんているの?」という反応は少なくないが、2021年に発表された第7回国勢調査によると、中国の非識字率は2.67%で、非識字者は3775万人に達する。大半が50代以上で、中国がまだ貧しかった時代、学校へ通えなかった人たちだ。非識字者のうち、75%を女性が占める。きょうだいのうち男の子だけが通学し、「女に学問は必要ない」という男尊女卑の考えから女子というだけで学ぶ機会から遠ざけられた人が多い。
大人向けの読み書き教室の「卒業」基準は、文字を3000字近く覚える小学5、6年生レベルが多い。それで銀行の口座開設や病院の手続き、ネットショッピングなどが可能になるという。
子どもならひたすら漢字を書き取りして覚えさせることができるが、大人に同じ方法は難しい。オンライン講座を開く43歳の程傑(Cheng Jie)さんは、自分の親世代の60~70代の生徒たちに、一語一語丁寧に教えている。「染」という漢字を教える時は「染めるには水が必要ですね。だからサンズイを使います。染色の材料は草木なので『木』を書きます。染め物作業は何回も繰り返すので『九』を使います。これで『染』の完成です」といった具合だ。
程さんは昼に授業の準備、夜にオンライン教室と、自由な時間はほとんどなくなった。家族からは「なぜそこまでやるの?」とも言われる。程さんは「読み書きができない人は自尊心が低く、自分を表現することが苦手で、納得できないことにも反対できない傾向が強い。字を覚えることで、自分の人生を有意義に使ってほしい」と力説する。
「生徒から『運転免許を取得しました』『孫に絵本を読んであげられるようになった』『レジ打ちの仕事につけた』とたくさんの報告があるんですよ」。これほどの充実感は、そうは味わえない。年配の生徒たちの生活が変化することは、程さんの喜びでもある。
オンラインの読み書き教室は「稼ぎ」としては少ない。生徒は農村地帯の人が多いため、授業を始めるのは農作業や家事が終わる午後8時や10時など深夜となる。金さん、程さんは「苦労が多くて収入が少ないから、オンライン教室をやめる人も多い。それでも自分は、熱心に学ぶ年配の生徒たちがいる限り続けたい」と口をそろえる。
読み書きができない人がいなくなり、オンライン教室が必要となくなる。そんな日が早く訪れるのを願い、彼女たちは今晩も授業をする。(c)東方新報/AFPBB News