【6月8日 AFP】ウクライナ・カホウカ(Kakhovka)水力発電所のダムが決壊し、ドニエプル(Dnipro)川下流のヘルソン(Kherson)では洪水が発生した。屋根まで水に漬かった民家もあり、消防や警察は救助活動を続けている。

「家はなくなった。屋根さえも見えない」と、子ども5人を連れて自宅から避難したドミトロ・メルニコウさん(46)は娘の手を握りながら話した。「地区全体が水の下だ。1階の天井より上に水が来ている」

 警察、救急隊員や兵士から成る救助チームはボートや水陸両用車を使い、取り残された住民の救助活動を行っている。中にはパスポートなどわずかな所持品しか持ち出せない人もいた。

 6日のダム決壊以降、ドニエプル川の水位は5メートル以上上昇した。当局は7日まで上昇を続けるとみていた。

■「本当に悪夢」

 自分で泳いで避難せざるを得なかった人もいる。ある男性は、空気マットレスをいかだ代わりにした。

 ナタリア・コルジさん(68)は避難する途中、泳がなくてはならない場所もあったと話した。救助隊の手を借りてゴムボートから降りたナタリアさんははだしで服は水浸し、足は引っかき傷だらけ、手は寒さで震えていた。

「すべての部屋が水に漬かった。冷蔵庫は浮いていた。冷凍庫も戸棚も何もかも」

「犬たちがいる部屋に行くには、水に潜らなければならなかった」と言い、犬がどうなったかは分からず、猫も見つけられなかったと語った。

「息子が(救助隊に)電話をかけたら、迎えに来てくれた」と言うナタリアさんは手に薬と所持品の入った幾つかのかばんを持っていた。

 砲撃には慣れているが、洪水は「本当に悪夢だ」と話す。

 救助隊はゴムボートから人や犬を水がない場所に降ろすと、他の救助者を捜すためすぐに去って行った。

 救助活動の指揮を執る警察官のセルゲイさん(38)は「住民は可能なら位置情報を送ってくるので、彼らとそのペットを迎えに行く」と話した。

 水がない場所に着くと、笑顔で手を振る人がいた。震えながら涙を流す人もいる。

 空襲警報が鳴り、遠くの砲撃の音が聞こえることもあるが、住民はほとんど反応を示さない。ヘルソンは昨年11月のロシア軍撤退以降、激しい砲撃にさらされてきた。

■「爆発には慣れた」

「爆発にはもう慣れた。気にもとめない」というメルニコウさんは、ヘルソンを離れることに決めた。

「開戦後も、占領された時もここで暮らしてきた。だが今は家も、仕事も、何もかもない。離れたくはないが、他にどうすればいいというのか? 子どもたちとはここに住めない」

 洪水から逃れてきた住民は寄り沿っていた。ペットを抱いた人もいる。芝生の上には所持品を入れたかばんが積まれていた。

 ヘッドライトを着けた男性は毛布にくるまり、灰色の猫を抱いていた。

 ボランティアは近くの街、ミコライウ(Mykolaiv)に向かう無料バスが出ているバス停まで希望者を連れて行った。鉄道による避難も始まっている。(c)AFP/Yulia Silina