【6月9日 AFP】チリの首都サンティアゴでこのほど、LGBTなど性的少数者向けに、タイの国技「ムエタイ」の技を使った無料の護身術教室が開催された。同国では同性愛者嫌悪に根差す暴力事件が増加している。

 5月末に2時間にわたり市民体育館で行われた教室には50人が参加。大会優勝経験もあるムエタイ格闘家3人が防御や反撃方法を教えた。

 襲いかかってきた人物の首や肋骨(ろっこつ)、性器、すねを狙い、肘や膝を使って反撃してから走って逃げるという戦法を基本としている。

「夜道を歩くのは少し怖い」とイグナシオ・ゴメスさん(23)は話す。「LGBT向けの教室は本当にありがたい。これを一番必要としているのは私たちだから」

 教室は駐チリ・タイ大使が発案し、現地の性的少数者の人権団体「モビー(Movilh)」と協力して企画された。今後も同様の教室が計画されている。

 チャニダー・ガモンナウィン(Chanida Kamalanavin)大使は、同性愛者の友人が深夜に襲われた際、ムエタイのおかげで自衛できたという話を聞いて教室を開くことを思い付いた。

 大使はこの日の参加者に「この技術があれば、自分の命を守るのに役立つ」と話した。

 当初、参加者は1回20人を予定していたが、150人余りから申し込みがあったため、50人に定員を引き上げた。

 今後はサンティアゴのほか、南部プンタアレナス(Punta Arenas)でも開催予定。さらにはブラジル、ペルー、メキシコでも開催が検討されている。

 心理学者のサフカ・ビバンコさん(25)は、ムエタイは性的少数者だけではなく、女性を狙った暴力から身を守るのにも役立つと指摘。「基本的な動き」を知っていれば危険な状況に対処できると話した。

 モビーによると、性的少数者に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)の件数は2022年には前年比で倍増した。また、死者数は6人と、史上最多だった20年に並んだ。(c)AFP/Pedro SCHWARZE