【6月10日 AFP】2023年のウクライナ。廃虚と化した街を背に、カラシニコフ銃を持つロシア兵。先頭でロシア国旗を掲げる女性の防弾ベストには、ロシア軍がウクライナ侵攻のシンボルとする「Z」の文字が見える。ロシア・モスクワ中心部で開幕した「われらはロシア人、神はわれらと共に」と題する絵画展の出品作の一つだ。

 帝政ロシア時代や旧ソ連時代の伝統的なリアリズムを思わせる作風だが、絵柄はウクライナ侵攻での戦意高揚を狙っている。そばでは口ひげを生やした男性が、制服姿の士官学校の生徒たちに「われわれの最終的勝利を描いた絵の近くへ」と声を掛けている。

 その傍らで写真撮影に応じていたのが、作者のワシリー・ネステレンコ(Vasily Nesterenko)氏(56)だ。1967年、当時ソ連の構成国だったウクライナに生まれた同氏は愛国的なロシア人画家として知られ、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領から数々の賞も贈られている。「軍人であることは、芸術家と同じように一生涯のことだ」と話す。

 宗教画で頭角を現したネステレンコ氏は2004年以降、旧ソ連時代から続く称号である「人民芸術家」として、国の文化事業において主要な役割を担ってきた。

「大砲が話し始めたら、黙らせることはできない」とAFPに語った同氏は、ウクライナやシリアに出動したロシア軍のもとを訪れてきた。写実性を追求するためだという。

 廃虚や民間人の犠牲者を描くこともあるが、中心的なテーマは兵士同士の戦友意識だ。「史実に基づく私の戦争画は楽観的で、ゴヤ(Francisco de Goya)の作品のような暗部は描かない」と語る。

「あらゆる戦争に対して祖国は一致団結し、対処してきた。わが国には常に戦争があった。モンゴル、ポーランド、スウェーデン、フランスと、そしてドイツとは数回戦った」というネステレンコ氏。

 ロシア史を必然的な軍事的冒険の成功としてつづる今回の展覧会も、大統領府の見解に沿ったものとなっている。(c)AFP