【5月28日 AFP】レバノン東部ベカー平原(Bekaa Valley)を見渡すカサルナバ(Qsarnaba)村には、緩やかな段々畑が広がる。村人が摘んでいる明るいピンク色のバラは、エッセンシャルオイルやスイーツ、化粧品などに使われる香り高いダマスクローズだ。

 ダマスクローズの名は、レバノンとシリアの国境を隔てる山脈の向こうに古代から栄えてきた同国の首都ダマスカスに由来する。ダマスクローズから採れるオイルは、調香師にとって欠かせない。専門家の間では、リラックス効果や感染症の治癒効果もうたわれている。

 また、ダマスクローズから抽出されるローズウオーターは中東全域でリフレッシュドリンクとして飲用されているほか、ターキッシュディライトなどの菓子やモスク(イスラム礼拝所)で使う香料、結婚式で幸運を呼ぶ水などとして珍重されている。

 朝のうちに摘み集めた花を村の倉庫に持ち込むと、収穫量に応じて報酬が支払われる。

 ピンク色の花びらが敷き詰められた倉庫には、原料として使うためのローズを買い求めに多くの人がやって来る。

 その一人、ザハラ・サイード・アフメド(37)さんは4年ほど前、自宅に小さな工房を構え、「祖父が使っていた」金属製の蒸留器でローズウオーターの抽出を始めた。1キロのバラの花びらから、多ければ500ccのローズウオーターができるという。手作業で瓶詰めし、ラベルを貼り、地元で限定販売する。バラのシロップ、お茶、ジャムなども作っている。

「ローズウオーター作りは私たちの伝統の一部。カサルナバではどの家にも、たとえ小さくても蒸留器がある」とサイード・アフメドさんは言う。

 バラの咲く数週間は、カサルナバの繁忙期だ。

 村最大の一族出身のダヘル・ディラニさんは、2019年後半からの経済危機で「バラにしても他の収穫物にしても、約80%も価値が減ってしまった」と話す。それでも「このバラのおかげで食卓を囲める」という。

 ダマスクローズは十字軍の時代から何世紀にもわたって、シリアから欧州へ輸出されてきた。今ではフランス、モロッコ、イラン、トルコなどでも栽培されている。

「私たちの村はレバノンのどの村よりも多くのバラを生産している」とサイード・アフメドさんは誇らしげに語った。全国のローズウオーターの生産量の半分以上をこの村が占めているという。「カサルナバはバラの村だ」

 映像は5月11日撮影。(c)AFP/Elisa Amouret