【5月24日 東方新報】中国・江蘇省(Jiangsu)昆山市(Kunshan)の王計兵(Wang Jibing)さんは中国で「デリバリー詩人」として知られている。55歳でフードデリバリーの配達員をしながら詩を書き続け、インターネットで注目を集めたことから、詩集「時を追う人」を出版した。

 王さんは江蘇省徐州市(Xuzhou)の農家出身。満足に学校も卒業できず、東北部の遼寧省(Liaoning)で大工、山東省(Shandong)でトラック運転手、西部の新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)で出稼ぎ労働者など、全国各地で働いてきた。心を休める趣味は読書。古本屋で本を買い、仕事が終わった後に公園の街灯の下で本を読んだ。自分で文章を書くこともあった。

 現在は昆山市で小さな商店を営むが、客はそれほど多くない。店は主に妻に任せ、2019年から配達員をするようになった。1日の配達は20~30件で、正午から午後10時すぎまで働き、配達が40件を超える日もある。雨の日も風の日もバイクを走らせる仕事のさなか、詩が浮かぶとスマホにメモをしていた。

「私は配達員が地位の低い職業と思ったことは一度もありません。人生に対する理解が深まり、インスピレーションがわいてくる。この仕事に感謝しています」

 王さんの詩が友人によってネットにアップされると、2000万回以上もシェアされ、一躍「デリバリー詩人」として注目されるように。出版社6社からオファーが届き、王さんは最初に連絡をくれた出版社を選んだ。「契約書の内容は詳しく読んでいません。金もうけが目的ではないので」

 天候や季節に関係なく、決められた時間内に食事を届ける日々から生まれた詩集「時を追う人」は、定価56元(約1103円)で1万部出版された。生活に追われながら働く人たちの共感を得て、文化評価サイト「豆瓣(Douban)」では10点満点中9.3点という高い評価を得ている。

 王さんには3人の子どもがいて2人は大学に通い、娘は孫を産んでいる。生活には満足しているが、今後も配達員を続けるつもりだ。

「詩の創作は私の生き方。商売にするつもりはありません」。王さんはこれからも日々の生活の中から生まれてくる言葉を詩にしていく。(c)東方新報/AFPBB News