戻ってきた中国本土の観光客 懐かしの映画『ラヴソング』が映す香港の今
このニュースをシェア
【5月17日 東方新報】中国本土から香港に観光客が戻ってきた。昨年暮れに中国本土でコロナ対策の行動制限が大幅に緩和されたことに加えて、香港と中国本土の通関が1月から再開され、2月には団体旅行も解禁された。
香港政府観光局によると、2月の本土から香港への訪問客は110万人に達している。単月で100万人を超えたのは3年ぶり。多くの中国人にとって、3年ぶりの旅行先として近場の香港を選ぶのは自然な選択だろう。
現時点では、中国本土の観光客を受け入れる鉄道駅や通関窓口の列はスムーズに流れている。諸外国の空港では、旅行客の急増に対応できず、長蛇の列ができているところも多い。観光産業に力を入れている香港当局の周到な準備がみてとれる。
香港の観光業界で22年間働いている中国・青島市(Qingdao)出身の張春姫(Zhang Chunji)さんは大忙しだ。毎日朝7時半に自宅を出発し、8時半には中国本土側からツアー客を連れて香港に戻り、ツアーバスに乗せて、香港各地を観光し、食事をして、午後7時45分にビクトリアハーバー(Victoria Harbour)のナイトツアーで締めくくる。ツアー客をホテルに送り届けると、午後10時を回っていることもあるという。
「忙しいですが、充実しています」と張さん。この3年間、コロナの影響で全くガイドの仕事がなかった。家族を養うために、清掃員や警備員、介護士として働いてきたが、その収入はツアーガイドの3分の1以下だったという。
にぎわいを取り戻した香港の街並みやスムーズに旅行客が流れる鉄道駅の映像を見ると、昔の香港映画が思い出される。
1996年に公開された香港映画『甜蜜蜜(ラヴソング、Comrades: Almost a Love Story)』。レオン・ライ(Leon Lai)が演じる中国・天津(Tianjin)市の青年を乗せた列車が香港に到着するモノクロームの場面から始まる。大陸に恋人を残してきた青年は、香港のマクドナルド(McDonald’s)でマギー・チャン(Maggie Cheung)演じる大陸出身のアルバイト女性に出会う。テレサ・テン(Teresa Teng)のヒット曲「甜蜜蜜(Tian Mi Mi=とても甘い)」をBGMにして、どこかやぼったい感じの大陸出身の男女2人が香港の街で繰り広げるすれ違い恋愛劇だ。
映画の設定は1986年から1996年ごろ。中国本土では、台湾出身のテレサ・テンの曲が爆発的に流行していた時期だ。だが、国際都市である香港でテレサ・テンと言えば、大陸からの出稼ぎ労働者が聴く歌というイメージがあったようだ。映画は、テレサ・テンの歌を通して、イギリスの植民地として発展した香港と貧しかった中国本土のすれ違いも描いている。
中国本土が発展したからといって、一足飛びに両者のすれ違いがなくなるわけではないだろう。だが、映画『ラヴソング』の時代には想像もできないスピードで香港と本土の一体化が進んでいることも現実だ。懐かしの映画をみると、香港と中国に流れた時間の長さが実感できる。(c)東方新報/AFPBB News