【5月15日 東方新報】中国版ゴールデンウイークは5月1日(労働節、メーデー)を挟む連休。厳しい移動制限を伴うゼロコロナ政策が緩和されて初めてとなった今年は、「リベンジ旅行」で盛り上がった。そんな中国の人にとって、今、最もホットな旅行先の一つが山東省(Shandong)淄博市(Zibo)だ。

 淄博は人口約470万を擁する地方都市。中国の歴史に詳しい人なら、春秋戦国時代の強国・斉の都が置かれたと言われてピンとくるかもしれないが、多くの日本人には観光地として馴染みは無いだろう。そんな淄博が、中国人のハートをわしづかみにしたのは、串焼きだ。

 海外でティックトック(TikTok)として知られるSNS「抖音(Douyin)」の動画では、「淄博の串焼きの正しい食べ方」は19万以上の「いいね」が押され、22万回以上リツイートされたという。「淄博の串焼き」はバズっている。

 淄博の串焼きには他の都市のものとは違う特徴がある。店では各テーブルに炭やコンロが置かれ、キッチンで7、8割がた火の通された串焼きを、最後は客が自分で焼いて仕上げる。焼き上がった具材は、薬味のネギと特製タレと共に薄いナンのような皮で巻いて食べるのだ。

 だがそれ自体は昔からある。突如、注目された背景には、コロナ禍で落ち込んだ消費を回復させるための取り組みがあり、淄博市政府は地元の食文化である串焼きに目をつけた。同市は、3月に記者会見で串焼き協会の設立と串焼きマップの作成を発表。更に、「串焼きフェス」を計画して消費券を配り、名店の選考会も行った。串焼き専用バスの設置や観光地の無料開放なども試みた。市当局だけではなく、串焼き店も自ら魅力満載の動画をSNSで発信。官民が一丸となった串焼きによる町おこしである。

 こんなエピソードもある。昨年5月、コロナ対策のため同市内で山東大学(Shandong University)の学生数千人が隔離された。その学生らが、隔離最後の日に地元の串焼きでもてなされた上、暖かくなって花が咲く頃に、再び串焼きを食べに来るよう招待されたというのだ。感動した学生たちが、本当に友人や家族と共に串焼きを食べに戻って来たのが今回の大流行のきっかになったという。

 そんな経緯もあり同市を訪れる観光客は急増し、4月頃には淄博駅の1日の発着人数は過去3年で最多の5万人に達したという。市では、宿泊施設が埋まってしまうなどしたため、ゴールデンウイークを迎える前に、休暇中のピーク時の訪問を避けるよう観光客に呼びかけたほどだ。

 ある旅行サイトのデータによれば、ゴールデンウイーク期間の予約数は昨年の76倍近く、コロナ前の2019年と比べても47倍に達したという。

「串焼きは食べには行きません。遠くから来た人たちに優先的に体験してもらいたいからです。ゴールデンウイーク中は、車も運転せず観光客の皆さんのために路を譲ります」

 そう話すのは地元の人だ。

 明らかに収容能力を超えてしまう人気ぶりに際しても、市ではホテルの価格高騰を制限する対策をとり、なるべく観光客に楽しんでもらえるよう市民にも協力を呼びかけるなど、あくまでも観光客ファーストに徹した。

「『体験式観光』の流行により、自然などの観光資源に特に恵まれているわけでもない淄博のような普通の都市でも、人気が出るチャンスが生まれたのです」。観光業に詳しい専門家は、淄博の成功は他の観光地にとっても啓発的な意味を持つと指摘する。同時に、「誠意が最高の営業」と淄博市の努力を評価する。

「多くの人気観光地にみられる、ぼったくりや怠慢などの行為とは全く異なり、観光客に深い印象を残しました」。“淄博式おもてなし”を一度経験してみてはいかがだろうか?(c)東方新報/AFPBB News