【5月20日 AFP】角ばったフレームに大きなタイヤ、フロントグリルには鋭い歯の装飾。映画『マッドマックス(MAD MAX)』を連想させる軽量のバギーは、ロシアによるウクライナ侵攻に対峙(たいじ)し、前線で戦っているウクライナ軍のために製造されたものだ。

 頑丈で耐久性のあるバギーは、道なき道でも武器や負傷者を迅速に運べる。

 首都キーウでバギー製造を手掛けるのは、ロシアに併合されたクリミア(Crimea)半島出身のムサさん(29)だ。故郷に住む家族に影響が及ぶ恐れがあるとして、取材には仮名で応じた。

 本職は医師だが、昨年夏、ウクライナ軍にバギーを提供する事業を始めた。軍は車両の購入に寄付金を活用しているという。

 バギーは、独アウディ(Audi)やフォルクスワーゲン(Volkswagen)などの中古部品を寄せ集めて組み立てられる。戦場でも簡単に修理できるよう、複雑な電装品などは使っていない。

 本業を一時中断してでもウクライナに貢献したいと考えているムサさんは、クリミアのイスラム系少数民タタール人だ。ロシアに迫害されたタタールの人々は、大多数が併合に反対している。

 ロシア人は「自由を憎んでいる」と、ムサさんは言う。

■フランケンシュタインのよう

 キーウ郊外にある別の作業場では、医療大隊向けの車両が製造されている。

 プロジェクトを率いるのは、ルーマニア人ボランティアのラドゥ・ホッス(Radu Hossu)さん。活動資金は、SNSを通じてルーマニアとモルドバの人々から集めている。

 東部ドネツク(Donetsk)州の医療大隊支援が目的で、やはりさまざまなパーツを組み合わせて造られる。米フォード(Ford)製のトラックとロシアのGAZ車の車台が使用された医療車は、砲弾が飛び交う前線から負傷兵を救出する際に使われる予定だ。

「基本的には(パーツを寄せ集めた)フランケンシュタインのような車。同じ車は地球上に存在しない」と、ホッスさんは言う。

 政治コンサルタントとして働いていたというホッスさんは、プロジェクト名を「オレグ・フバル(Oleg Gubal)」と名付けた。病院に向かう途中で死亡したウクライナ兵の名前から採った。個人的にも面識があったという。

「あの時こんな車両があったら。オレグはまだ生きていたかもしれないとまでは言わないが、生き延びる機会を与えることにはなったと思う」 (c)AFP/Anna MALPAS