【5月8日 東方新報】中国で日本のバスケットボール漫画『SLAM DUNK(スラムダンク)』の映画『The First Slam Dunk』が4月20日に公開され、月末までの興行収入が5億2280万元(約102億円)とトップになった。2位は新海誠(Makoto Shinkai)監督の『すずめの戸締まり(Suzume)』の3億5260万元(約69億円)で、日本アニメが中国を席巻している。

 中国では1990年代後半から2000年代にアニメ『スラムダンク』が放送され、ブームに火が付いた。映画館に詰めかけたのは、アニメでスラムダンクを知った20代から30代が中心だ。

 そもそも中国はアジア屈指のバスケットボール大国だ。米国のプロバスケットリーグNBAのヒューストン・ロケッツで活躍した姚明(Yao Ming)選手は国民的スターであり、競技人口も約7600万人と圧倒的に多い。若者への普及には、アニメ版スラムダンクの影響も大きいといわれている。

 北京市の会社員、李(Li)さん(31)は「スラムダンクは僕たちの青春。大勢の仲間と映画館で楽しめてうれしい」と話す。

 一方で、スラムダンクのヒロインの一人である晴子については「僕らのヒロインはどこへ行ってしまったのか。アニメ版の方が絶対かわいかった」と残念がる。

 アニメ版のオープニングに登場する神奈川県鎌倉市の「鎌倉高校前1号踏切」を訪れる中国のファンたちも後を絶たない。アニメなどに描かれた舞台を巡る「聖地巡礼」は国籍を問わずアニメファンたちの文化として定着しているようだ。

 今回の映画でも、実際に映画館を訪れて、スラムダンクの看板やポスターの前で記念撮影し、それをSNSにアップして友人たちと映画評を交わすという一種の「聖地巡礼」現象がみてとれる。

 中国では昨年暮れに厳格な「ゼロコロナ政策」が大幅に緩和され、各地の映画館も徐々に再オープンしている。『The First Slam Dunk』と『すずめの戸締まり』は長く収入のなかった映画館にとっても待望のヒット作となっている。

 映画だけでなく京劇や雑技などリアルな舞台興業も急速に回復している。中国演芸産業協会によると、2023年第1四半期(1〜3月)の有料公演は前年同期比95%増の6万8900回。興行収入も前年同期110%増の49億8000万元(約972億円)だった。

 いわゆるコロナ明けの「リベンジ消費」が中国でも起きているとの見方が大半だが、一方で、映画や舞台の楽しみ方が「参加型」へと変わっているとの指摘もある。

 例えば、映画をきっかけにスラムダンクのユニフォームを購入し、映画のワンシーンを数人で演じてSNSに投稿。友人たちからコメントをもらって楽しむのである。

 参加型ファンの増加は、映画館や配給元も歓迎している。チケットだけでなくグッズ販売や関連イベントの売り上げが増えるからだ。実際、映画や舞台でチケット以外の関連消費はコロナ前より大幅に伸びたといわれている。

 ポストコロナのリベンジ消費だけではなく、参加型の新たなニーズを取り込んでいけるか。中国エンタメ界のV字復活に向けて、スラムダンク人気は大きなヒントになりそうだ。(c)東方新報/AFPBB News