【4月25日 AFP】南アフリカの自然保護活動家ジョン・ヒューム(John Hume)さんは、30年にわたってサイの保護に多大な財産をつぎ込んできた。

 ヒュームさんは81歳になった今、資金が底を突いたため世界最大のサイ牧場をオークションに掛け、売却しようとしている。AFPのZoomインタビューに対し「サイ2000頭と8000ヘクタールの土地以外、何も残っていない」と語った。

 サイの角はアジアで伝統薬として珍重されており、世界のサイの80%近くが生息する南アフリカは密猟の多発地帯となっている。サイの角は闇市場で金やコカインに匹敵する、1キロ当たり6万ドル(約800万円)の高値で取引されている。

 南ア政府によると、有名なクルーガー国立公園(Kruger National Park)をはじめ保護が強化されているにもかかわらず、昨年も448頭のサイが殺された。

■「始めたときよりも多くのサイ」

 観光リゾート開発で財を成した元実業家のヒュームさんは、農場経営を夢見て引退した後、たまたま1頭のサイを購入してとりこになった。これまでに費やした資金は総額約1億5000万ドル(約200億円)。「この30年間、貯金をはたいてサイのために使ってきたが、ついに資金が尽きてしまった」

 それでも「間違いなく価値のあることだった」という。「今ではこのプロジェクトを始めたときよりもたくさんのサイが地球上にいる」

 19世紀後半には絶滅寸前まで追い込まれたミナミシロサイは、数十年にわたる保護・繁殖活動によって徐々に個体数が回復した。国際自然保護連合(IUC)の「レッドリスト(Red List)」では「準絶滅危惧種」に指定されており、現在の生息数は約1万8000頭とされる。

 うち2000頭が暮らすヒュームさんの牧場は、北西(North West)州にあること以外は非公開。延々と続くフェンス、監視カメラ、熱感知器、レンジャー部隊によるパトロールと警備は極めて厳重だ。

 それでも警備責任者のブランドン・ジョーンズさんは「この保護区から密猟者を遠ざけているにすぎない。彼らはもっと侵入しやすく、ローリスク・ハイリターンな場所を標的にするだけだ」と嘆く。

■ヨットよりもサイ

 警備体制の全容や武装レンジャーの人数は秘密だ。サイ牧場最大のコストがこの警備費で、購入希望者には大きな資金力が必要だとヒュームさんは言う。「スーパーヨットを所有するよりも、サイを絶滅から救いたいという大富豪が現れてほしい」

 サイ、土地、農機なども含めた入札額は1000万ドル(約13億円)からに設定されている。交渉次第では、密猟者に狙われないよう切り落とした角10トン分、闇市場で5億ドル(約670億円)以上相当を追加することも考えている。

 ヒュームさんは合法的な市場を作り、角を売却して保護プロジェクトの資金源にすべきだと訴えている。「私は解決策を持っている。しかし他の国々やNGOは賛成してくれない」

「残念ながら闇市場では、死んだサイの角の方が、生きたサイよりも価値があるのが現状だ」

 映像は2、18日撮影。(c)AFP