【4月21日 東方新報】広い中国では春先には黄砂、夏に入れば洪水と干ばつ、冬は大雪の被害が相次ぐ。これからの季節は、華南地方が「竜舟水(Longzhoushui)」の大雨シーズンに入ってくる。中国南部の広東省(Guangdong)や広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)、海南省(Hainan)、福建省(Fujian)、香港、マカオを訪れる人は大雨を警戒する必要がある。

 中国気象局は「竜舟水」を毎年5月21日から6月20日に降る雨と定義している。南からの温かく湿った風が吹き込む一方、南下する寒気団とぶつかって、しばしば大雨が降る。端午の節句のドラゴンボード(竜舟)レースが開催される時期と重なるため「竜舟水」という名前が付いたらしい。

 中国では、竜は風雨を支配する神として恐れられる一方で、皇帝の象徴となるなど吉祥のイメージもある。「竜舟水」も邪気を払い、幸運を運んでくると信じられている。雨も適量なら恵みの雨。度を超えれば洪水を引き起こす。まさに竜のイメージなのだろう。

 昨年6月下旬には広東省北部と広西チワン族自治区南部で数百万人が被災する「百年に一度」の洪水被害が発生した。一昨年7月には河南省(Henan)で「千年に一度」の大雨による水害が発生。2020年8月にも長江(揚子江、Yangtze River)上流の四川省(Sichuan)や重慶市(Chongqing)で洪水が発生し、400万人が被災した。中国中南部では、初夏から夏にかけて、毎年のように水害が起きている。

 水害では、住民の早期避難が被害を最小限に食い止めるカギだ。気象局が発出する大雨・洪水警報の重要性は増している。今年1月に中国気象当局が北京で開催した会議では、気象災害に対する省レベルの緊急警報を2022年の1年間で551件発出し、被災地人口の97%をカバーしたと公表した。また、人工知能(AI)の導入によって、短時間で大雨を予報できるようになったほか、大雨警報の的中率は91%に達し、過去最高を記録した。

 近年の大雨災害は規模が大きくなっており、少しでも災害への備えが遅れれば大惨事につながりかねない。広東省政府は3月、昨年の洪水被害を教訓にした防災計画を公表。その中で、大雨や洪水が予想される時には、技術チームや救助チームや重要区域に事前に配置し、対応にあたることなどを決めている。洪水が発生すると、物資や人員の移動が思うようにできなくなるため、事前配置によって被害拡大を防ぐ狙いだ。

 大雨シーズンを意味する「竜舟水」の語源となったドラゴンボートレースについては、中国では有名なエピソードがある。戦国時代の楚の国に屈原(Quyuan、くつげん)という人望の厚い政治家がいたが、周囲の陰謀で国を追われ、川に身を投げてしまう。身を投げた旧暦5月5日に、屈原を助けようと漁民たちがドラゴンボートを使ったと伝えられることから、この日にレースが行われるようになったという。

 ドラゴンボートはもともと救助ボートだった。災難や災害にはあらかじめ備えておくといいとの教訓だろう。これを中国語では「有備無患」という。日本語にすると「備へ有れば患(うれ)い無し」である。(c)東方新報/AFPBB News