ウクライナ負傷者の治療、「耐性菌」感染が障害に 独論文
このニュースをシェア
【4月29日 AFP】ロシアによるウクライナ侵攻に伴う負傷者の治療に際し、抗菌薬(抗生物質)が効かない「薬剤耐性菌」への感染が深刻な障害となっていることが、ドイツの医師団が先週発表した論文で明らかになった。
ウクライナの医療現場では侵攻以前から、抗菌薬が効きにくくなる「薬剤耐性(AMR)」が大きな問題となっており、研究者は、侵攻で状況が悪化する恐れがあると警告してきた。
査読前論文は18日、デンマーク・コペンハーゲンで開催された欧州臨床微生物・感染症学会議(ECCMID)で発表された。
それによると、ウクライナから独ベルリンのシャリテー大学病院(Charite University Hospital)に昨年搬送された47人の負傷者のうち、2種類以上の抗菌薬に耐性を示す「多剤耐性菌」への感染が14人に確認された。
うち3人は子ども、1人は兵士だった。負傷の原因は銃撃が6人、爆弾もしくは手りゅう弾の爆発が8人となっている。
シャリテー大学病院の感染症専門医アンドレイ・トランプジ氏はAFPに対し、複雑な大けがと耐性菌感染の組み合わせは、医師としての25年間の経験の中でも「最も困難な課題」だと話した。
同院のマリア・ビルヒニア・ドス・サントス(Maria Virginia Dos Santos)医師は、ウクライナで負傷した人の耐性菌感染は「殺菌が施されず、物資が乏しい中、野戦病院などの仮設施設で、不十分な外科手術や抗生物質の投与を数週間から場合によっては数か月にわたり受けた」ことに起因していると指摘した。
■静かなパンデミック
AMRは、人間や動物に対する抗生物質の大量投与によって獲得される。「静かなパンデミック」とも呼ばれる。
世界保健機関(WHO)によると、2019年には推定127万人が耐性菌感染で死亡した。50年までにその数は1000万人を超えると予想されている。
トランプジ氏によると、医療チームは外科手術の際に傷口に直接抗生物質を投与したり、細菌に感染して最終的に細菌を壊してしまうウイルス「バクテリオファージ」を活用したりする新手法も採り入れた。
論文によると、こうした治療により、これまでに10人が退院し、うち2人は帰国したとみられる。
WHOは今月、細菌分析装置10台と検査キット1200セットをウクライナの病院などに届けたと発表した。抗生物質の使用量を低減させるとともに、ウクライナのAMR問題の現状をより正確に把握できるようになると期待している。(c)AFP