■止血帯のリスク

 アンドリーさんの肩には開放骨折があり、「恐らく既に1.5リットルほど失血している」とオレグ医師。出血が止まっていない可能性があるため、止血帯を巻いたまま約25キロ離れたクラマトルスク(Kramatorsk)の病院へ搬送することになった。

 止血帯は命を救ってくれるが、長時間巻いたままにすると負傷した手足が壊死(えし)してしまう恐れがある。だが、とにかく優先すべきは患者の命だとアンドリー医師は言う。

 3時間巻いたままなのは「長い」が、兵士の腕は助かるとアンドリー医師は考えていた。「われわれが診た患者で、(止血帯を)手に4時間巻いたケースもあるが、その手は今動いている」

■「まさにノンストップ」

 医療部隊が野外で引き継ぎをしていると、再び患者搬送の要請が入る。今度は木の枝でカムフラージュされた装甲兵員輸送車で、18歳の兵士が運ばれてきた。顔色は悪いが自力で歩いている。脳振とうを起こしていたため投薬し、安静にさせる。

 同じ兵士が2週間前にも、車が横転し、脳振とうで運ばれてきたという。 

 この2人の患者を含め、この日は7人が搬送されてきた。「まさにノンストップだ」とアンドリー医師。それでも重傷の兵士の治療は順調に進んでいるとして、「われわれ医療部隊がよくやっている証しだ。この天候の中でも、すべてのステップが完璧に機能しているのだから」と胸を張った。

 兵士のアンドリーさんに前線から付き添ってきた補助衛生兵のリュボミールさんは、ロシア軍から「頻繁に砲撃される」と嘆いた。

 今回の侵攻でウクライナ兵に最も多いけがは、手足の負傷と並んで爆発の気圧変化による脳損傷がウクライナ兵に最も多いリスクの一つだとオレグ医師は指摘する。昨年夏に安定化処置拠点へ配属されて以来、「1日20時間、週7日、休みなく働いている──厳しい仕事だ」と話した。(c)AFP/Anna MALPAS