【3月30日 AFP】ウクライナ南部ザポリージャ(Zaporizhzhia)州にある原子力発電所の敷地内では、放射線検出器を搭載したロシア軍の装甲兵員輸送車が警備に当たっていた──。AFP取材班は29日、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ(Rafael Grossi)事務局長の視察に、ロシア軍の管理下で行われたプレスツアーの一員として同行した。

 ザポリージャ原発はウクライナ侵攻開始直後の昨年3月初め、ロシア軍により制圧された。以来、同原発への攻撃をめぐり双方が非難の応酬を続ける中、不測の事態が起きる脅威は高まっている。

 輸送車の傍らにいた兵士は「リクビダートル」と名乗った。このコールサインは、1986年のチョルノービリ(チェルノブイリ、Chernobyl)原発事故の際に処理に当たった作業員を指す。

 ザポリージャ原発が攻撃された場合、「職員を避難させる」準備はできていると、リクビダートルは話した。

 かつてウクライナの電力需要の20%を賄っていた同原発は、侵攻開始後、数か月間は稼働を続けていた。その後、6基の原子炉は停止している。

 ウクライナは、ロシア軍が少なくとも1000人の兵士を駐留させ、原発を「核の盾」にしていると非難している。

 AFPの記者は敷地内で少なくとも5台の軍用車両を見た。取材前に撤収した車両の有無は確認できなかった。

 ロシア兵は「国家警備隊が原発の安全を確保している」と語った。主な任務として、ウクライナの「破壊工作員」による原発の「武力占拠を防ぐ」ことを挙げた。

■「砲撃にうんざり」

 侵攻開始後2回目となる視察を敢行したグロッシ事務局長は、ロシア、ウクライナいずれにも適した安全担保措置を策定中だと語った。「すべての関係者に受け入れられる現実的な解決策を用意しようとしている」

 ロシアが派遣したザポリージャ原発のユーリー・チェルニチュク(Yury Chernichuk)所長は、吹き飛ばされた窓ガラスなどの被害状況を記者団に見せた。原発職員として紹介された女性は「とにかく砲撃にうんざりしている」と話した。

 職員の多くがウクライナ支配地域に逃れたため、人員不足も問題だ。だが、チェルニチュク氏は「すべての安全勧告」に従っていると強調した。ロシア国営原子力大手ロスアトム(Rosatom)は、専門家を派遣して人員不足を補っているとしている。

 原子炉がオーバーヒートしないよう冷却するため、ウクライナの電力網に今も接続されているが、電力供給は安定していない。特に空爆の後には停電が頻発し、非常用発電機に頼らざるを得ない状況に陥る。

 ロシアの原発事業者ロスエネルゴアトム(Rosenergoatom)の役員顧問レナト・カルチャー(Renat Karchaa)氏はAFPに対し、「ロシアが軍事インフラを攻撃すると(ウクライナは)すぐに電力供給を切断し、ロシアの攻撃のせいだと言う」と語った。(c)AFP