【3月28日 AFP】ロシアの首都モスクワから約300キロ離れた人口3万7000人の町エフレモフ(Yefremov)。学校でウクライナ侵攻に批判的な絵を描いた13歳の少女が父親と引き離され、施設に入れられたことに住民はショックを受けている。

 他の地域と同じくこの町の住民も、1年に及ぶ侵攻を愛国的に支持する姿勢を表面的には見せている。大通りにはウクライナでロシア軍が使っている「Z」や「V」の文字と共に「ナチズムなき世界のために」と書かれた看板が立っている。

 しかし、住民の間では侵攻をめぐり静かに分断が起きている。

 きっかけは昨年、13歳のマリア・モスカリョワMaria Moskalyova)さんが学校で描いた絵だった。教師から侵攻を支持する絵を描くよう言われたが、マリアさんが描いたのはロシア国旗の上を飛ぶミサイルが、ウクライナ国旗の隣に立つ女性と子どもに向かっているものだった。「戦争反対」「ウクライナに栄光あれ」という言葉も添えられていた。

 校長はすぐに警察に通報し、父親のアレクセイ・モスカリョフAlexei Moskalyov)さん(54)がソーシャルメディアに侵攻を批判する投稿をしているのを見つけたと告げた。

 町議会のオリガ・ポドルスカヤ(Olga Podolskaya)議員によると、モスカリョフさんは3月1日から自宅軟禁下に置かれている。マリアさんは孤児院に送られ、父親と連絡を取ることを禁じられている。母親は2人と疎遠になっている。

 検察は27日、軍の「信用を失墜させた」罪でモスカリョフさんに懲役2年を求刑した。

 トゥーラ(Tula)の閑静な町での事件は全国的に注目され、マリアさんの解放を求めるオンライン署名も行われた。

 AFPはエフレモフの通りで住民に話を聞いたが、マリアさんの件だけではなく、ウクライナ侵攻についても意見をおおっぴらに語る人はごくわずかだった。

「子どもと父親を引き離すなんて本当にひどい。彼女は自分の考えを表現しただけなのに」と、学生のアレクサンドラさんは話した。

 また、ある年金受給者の女性は、昨年のウクライナ侵攻開始以来、生活が変わったと語った。「誰も責めていない。両国とも犠牲が出ている。一刻も早く終わってほしい」

 中心部の広場では、赤い腕章を着けた高齢女性2人がベンチに腰掛けていた。住民が組織した自警団の一員で、不審な行為を見掛けたら通報するのだという。

「攻撃の危険があると言われている。秩序を保たなければならない」と、女性の1人は説明した。

 アレクサンドル・サリコフさん(66)は平和を望んでいる。しかし、ウクライナに存在するロシアの領土を解放しなければならないと訴える。

 西側諸国による対ロシア制裁で自己破産したドミトリさん(50)はこう言った。「将来どうなるかだって? 治安当局が権力を握っていて、私たちは核戦争の瀬戸際にいる」

 ポドルスカヤ議員は、住民は葛藤していると話す。「みんな鬱屈(うっくつ)している。何が起こっているのか分かっていない。でも、抗議活動をするわけにはいかない。住宅ローンがあって、子どもがいて、首になるのが怖いから」 (c)AFP/Victoria LOGUINOVA-YAKOVLEVA