【3月14日 東方新報】中国随一といわれる花見スポットの武漢大学(Wuhan University)で桜が見ごろを迎えている。近年、中国でもSNSブームに乗って花見の人気は高まっており、武漢大では2018年から入場予約制を導入している。

 キャンパスでは桜並木を中心にソメイヨシノやヤマザクラ、シダレザクラなど約2000本が植樹されており、花見客たちはスマートフォンを自撮り棒にセットして、美しく咲いた桜をバックに撮影を楽しむ。日本のような宴会はなく、中国では文字通り花見をするのである。

 大学が定めた今年の花見シーズンは3月12日から27日まで。花見希望者はネット上で名前と電話番号、身分証かパスポート番号を登録する。混乱を避けるために今年は平日が1万5000人、週末は3万人の予約上限人数が設けられている。3月18日の土曜日は、医療、防疫関係者に開放され、一般客は予約できない。

 新型コロナウイルスが広がった2020年春は花見どころではなかったため、オンラインで桜並木の映像をライブ配信していた。翌2021年は新型コロナウイルスの治療に当たった中国各地の医療従事者やその家族などを大学側が招待し、お花見を楽しむニュースが中国国内で大きく報道された。

 中国では昨年暮れに厳格なコロナ感染対策が緩和されており、今春は4年ぶりに自由な花見ができるように。今年は大勢の花見客が詰めかけるのは確実で、「その前に」とばかりに早朝のキャンバスでは桜を撮影する学生たちの姿がみられた。

 武漢大学生命科学部大学院に通う廖振真(Liao Zhenzhen)さんは、「来年卒業を迎えますが、これまで毎年春に、大学の桜の前でクラスメートと一緒に写真を撮ってきました。武漢大学の桜と自分たちの思い出をもっと残していきたいです」と話す。

 中国では6月が卒業シーズンだが、学生たちは卒業論文の締め切り時期である5月を避け、3月から4月にかけて卒業アルバムを撮影することが多い。中国では、大学側が撮影するアルバムは集合写真だけ。個人や友人たちとのスナップ写真は学生個人がプロやセミプロのカメラマンを雇って撮影することが多い。

 卒業アルバムは1セット1000元(約2万円)から1500元(約3万円)程度。仲の良い同級生同士で費用を出し合って思い出を残すのだ。武漢大学なら桜の景色は外せないだろう。

 最近では廖さんのように在学中に仲の良い同級生と毎年写真を撮って豪華なアルバムに仕上げる学生も増えている。急速に少子化が進む中国では、武漢大学のような名門大学に進学した子どもは家族の誉れ。豪華な卒業アルバムは本人や友人だけでなく、家族や親類、知人のSNSにも流れることになる。

 実は、武漢大の桜は戦前に旧日本軍が植樹した苗が起源だ。武漢を占領した際、武漢大の教師たちから大学を破壊しないよう要請された旧日本軍が、苗木を日本から運び、校内に植樹した。戦後、伐採されそうになったが、住民の反対もあって生き残ったという。1972年の日中国交正常化の後には、当時の田中角栄(Kakuei Tanaka)首相が中国の周恩来(Zhou Enlai)首相に送った大山桜の一部も武漢大学に合流している。

 こうした歴史が中国メディアで紹介されることはあまりないが、地元の武漢市民たちにはよく知られている。桜の名所は数多いが、日中の歴史をその年輪に刻む武漢大学の桜は格別である。(c)東方新報/AFPBB News