【3月10日 AFP】ウクライナ東部の激戦地バフムート(Bakhmut)から西に約5キロ離れたチャシウヤール(Chasiv Yar)で、武器や食料を手にした兵士が泥の中で緊張した面持ちで待っている。

 25歳から52歳の兵士は、局地戦としては最も長期に及んでいるバフムートに送られる予定だ。

 ある前線の兵士はバフムートを「本物の地獄」だと描写する。

 ロシアの民間軍事会社ワグネル(Wagner)はバフムートの東部全域を制圧したと主張している。北大西洋条約機構(NATO)は今週、「数日以内」にバフムートが陥落する可能性があると警告したが、ウクライナ政府は防衛強化を命じている。

 装備を調整しながら出発を待つ約10人の兵士は、自分たちが具体的にどこに向かうのかは知らない。

「キット」の名で呼ばれる兵士は、目的地は「機密情報」だと話した。「歩兵には移動の直前に告げられる」

 この戦闘の最大の目的は、ロシアに完全包囲されるのを阻止することだと兵士らは口をそろえる。

 装備はカラシニコフ(Kalashnikov)銃や携行式対戦車ロケット発射機RPG7に加え、比較的新しいスウェーデン製のAT4。寝袋と地面にひく敷物、缶詰の食料やフルーツジュース、エナジードリンクも支給されている。

■疲れきった兵士たち

「最も重要なのは、部隊内の意思の疎通だ。そうすれば、戦闘中、仲間がどういう行動を取るか把握できる」とキットさんは話した。

 バフムートの攻防ではウクライナ、ロシア共に甚大な損害が出ている。だが、両国とも死者数は公表していない。

 兵士を前線まで送り迎えする装甲車を運転するセルギーさん(34)は、疲弊しきった兵士を乗せることよくあると話した。「士気は高いが、疲れている」とセルギーさん。「毎日雪か雨だ」「皆疲れきっているが戦い続けている」

■「若者が死ぬのを見るのはつらい」

 最近の雨でチャシウヤールの道はぬかるんだ。ウクライナ軍の旧ソ連製の戦車T80が行き来するため、さらにぬかるむ。

 救急車も行き来する。

 ある救急車の車内では、衛生兵2人が遺体袋の横に座っていた。

「若者が死ぬのを見るのはつらい。死が無駄ではないことを祈る」とし、「ただ野に埋められるのではなく、人間にふさわしい埋葬がされるべきだ」と強調した。

 救急車が攻撃を受けることもままあるという。

 チャシウヤール郊外ではアンドリーさん(22)が、米製105ミリ榴弾(りゅうだん)砲M119の目標の座標が伝えられるのを待っている。

 その合間にも、近くにロシアの砲弾が着弾した。

■不要な戦争

 アンドリーさんはAFP記者を、掘られたばかりの細長い塹壕(ざんごう)に避難させてくれた。数分間隔でもう2発、近くに着弾した。

「私たちはあそこにいる歩兵隊を信頼している。たとえあそこが本物の地獄だとしても」と語った。

 数時間後、アンドリーさんに座標が伝えられた。1時間で15発を発射。上官から「目標に命中した」と伝えられた。

 バフムートに向かう兵士らは明日をも知れない身だ。

 ある兵士は「これは不要な戦争だ。ロシア人も多分、要らないと思っているだろう」と話した。(c)AFP/Emmanuel PEUCHOT