【3月19日 AFP】第2次世界大戦(World War II)中にナチス・ドイツ(Nazi)によって収容所に送られるユダヤ人家族の一人となり、「ホロコースト(Holocaust、ユダヤ人大量虐殺)」を体験するロールプレーイング(RPG)ゲームがリリースされた。

The Light in the Darkness(暗闇の中の光)」は、約600万人のユダヤ人の命を奪ったホロコーストを正確に描写した初のゲームとうたっている。

 第2次大戦をテーマにしたゲームは、大ヒットした「コール オブ デューティ(Call of Duty)」シリーズなど多数あるが、ホロコーストについて触れたものはほとんどない。フランス出身で、現在は米カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とする開発者のリュック・ベルナール(Luc Bernard)氏(36)はAFPにそう指摘した。

「ホロコーストの存在を否定しているようなものだ」

 プレーヤーが行動を共にするユダヤ人家族は、ビシー(Vichy)政権下のフランスに暮らしている。一家は1942年、身柄を拘束され、パリのベル・ディブ(Vel d'Hiv)競輪場に連れて行かれ、その後ピティビエ(Pithiviers)の強制収容所に送られる。

「The Light in the Darkness」は、「フォートナイト(Fortnite)」を手がけたエピック・ゲームズ(Epic Games)のストアで無料配布されている。同社は「私たちの使命は、新世代と、世界史上最悪の残虐行為が繰り広げられた時代に生きた人々の体験を結び付けることにある」としている。

 ゲームの歴史に詳しいスイス・ベルン芸術大学(Bern University of the Arts)のオイゲン・フィスター(Eugen Pfister)氏はAFPに、こうしたゲームによって残虐行為が矮小(わいしょう)化されかねないという懸念は以前からあったと指摘する。

 ナチスを殺害するヒーローを描いた大ヒットゲームシリーズ「ウルフェンシュタイン(Wolfenstein)」は例外だが、このゲームも史実に基づいた設定だとはうたっていない。

■「最後にプレーヤーが勝つゲームは作れなかった」

 ベルナール氏によれば、ゲームの中でユダヤ人一家が悲劇的な運命をたどる中、プレーヤーは最終的なストーリー展開を変えることはできない。

「最後にプレーヤーが勝つゲームは作れなかった」とベルナール氏。「それではショア(ヘブライ語でホロコーストの意)ではなくなる」と話す。

 ベルナール氏は、ゲームの制作に当たり、米ロサンゼルスとワシントンにあるホロコースト博物館のアーカイブでリサーチを行い、ホロコーストの生存者とも対話した。そのうちの何人かにはゲームのアップデート版で自身の体験を詳しく語ってもらうつもりだという。

 ベルナール氏は15年ほど前、自身の祖母が戦時中にユダヤ人の子どもたちを英国に移送する作戦に参加した話に触発され、ホロコーストをテーマにしたゲームの開発に乗り出した。だが、資金不足と、コンセプトが「不快」と酷評されたことを受けて断念した。

 しかし、時代は変わったとベルナール氏は言う。

「私の目標は、ホロコーストの記憶を絶やさないため、もっと多くの開発者に関心を持ってもらうことだ」と話した。

「The Light in the Darkness」は米ワシントン州シアトル(Seattle)のポップカルチャー博物館(Museum of Pop Culture)でも展示されている。近々、家庭用ゲーム機版もリリースされる。(c)AFP/Daniel HOFFMAN