【2月28日 AFP】「アイス・マーメイド(氷の人魚)」の名で知られるチリ人スイマーのバルバラ・エルナンデス(Barbara Hernandez)さん(37)が今月5日、南極海を2.5キロ泳ぎ、最長記録を更新した。水泳時間は45分30秒に上った。

 水温はわずか2度。身に着けているのは一般的な水着にゴーグル、帽子、耳栓だけ。普通なら凍え死ぬような冷たさを克服するエルナンデスさんの唯一の武器は、我慢強さだ。

 南極のグリニッジ島(Greenwich Island)付近でチリ海軍のボートから海に飛び込んだ。

 国際寒中水泳連盟(International Winter Swimming Association)に記録を認定された後、エルナンデスさんはAFPの取材に応じ、「一番の敵は(他の)人ではなく、恐怖心だ」と話した。

「失敗したらどうしよう、信頼してくれている人たちの期待を裏切ったらどうしよう、そういう不安を克服するのが一番大変だ」

 あと半分というところで「心臓がひやっとした」と話す。心臓発作を起こして死に至る危険性もある低体温症の兆候だ。

「泳いでいる間は、ものすごくきつかった」「最初の1マイル(約1.6キロ)を泳ぎ切った時点では(ゴール地点を示す)ブイにたどり着けないような気がした。腕もどんどん重くなってきた」と言う。

 だが、ブイを目指してひたすら泳ぎ続けた。

 泳ぎ終えたエルナンデスさんは、海軍の船の中の医務室に収容された。

 体温は27度まで下がり、とりとめのないことを口走っていたが、意識はあった。2時間もするうちに普通の状態に戻ったと振り返る。

■「南極大陸の氷が解け続けている」

 エルナンデスさんは、記録を達成する瞬間を10年間思い描いてきた。自分のためだけではなく、注目されることで海洋保護を訴えるためでもある。

 米国立雪氷データセンター(National Snow and Ice Data Center)は今月、南極の海氷面積が過去最小を更新したと報告した。

「南極大陸の氷が解け続けている。それがすごく怖い」とエルナンデスさんは言う。

「泳いでいる時は、そのことも頭にあった。脚は痛かったけれど、強い気持ちを持っていた。これは自分のためだけじゃない。世の中にアピールするため。その気持ちが背中を押してくれる」と話した。

 今は、ギネス世界記録(Guinness World Records)の認定を待っている。次の挑戦は、世界の七大海峡を横断する「オーシャンズセブン(Oceans Seven)」マラソンスイミングで、8月に津軽海峡を泳ぎ切ることだ。(c)AFP/Pedro SCHWARZE