【3月7日 AFP】スウェーデンの首都ストックホルムの北に位置する凍った湖に、エルトン君(11)はためらうことなく飛び込んだ。湖から上がって来ると、同級生から拍手が湧いた。

 エルトン君ら40人は、ラバレン(Ravalen)湖で行われた体育の授業の一環「氷の穴」に参加している。凍った氷が割れて水中に転落した際の対処法を学ぶ、湖が多数存在する北欧ならではの取り組みで、こうした授業は北欧諸国では一般的だ。

 ソレントゥナ(Sollentuna)市で行われる授業は3週間にわたる。750人が順番で幅2メートル、深さ4メートルの氷の穴に飛び込む。

 エルトン君は、湖から顔を出した。水温は1度だ。首から下げた小さなアイスピックを両手に持ち、氷面に突き刺して、はい上がる。

 スウェーデン人で、アイスピックを持たずに凍った湖の上を歩こうとする人はあまりいない。これがないと、滑ってしまいなかなか氷面に上がれない。

 同級生と一緒に凍えた体をたき火で温めながら「思っていたよりかなり冷たかった」「でも、何とか30秒は耐えられた」とエルトン君はAFPに語った。

 IT業界で働くエルトン君の母マリー・エリクソンさんは、授業を撮影するため見学にきた。「とても重要な授業だ。子どもたちはいつも湖の周りで遊んでいるので、知識を持つことで安心できる」とAFPに語った。

 子どもたちは、帽子や手袋、靴など服を着たまま湖に飛び込む。リュックサックも背負ったままだ。リュックサックは浮くのに役立つだけではなく、体育教師のアンデシュ・イサクソンさんが持つ命綱につながっている。

■増える転落事故

 水に入ると、悲鳴を上げる子どももいる。

 イサクソンさんは、氷の上にはい上がってくる子どもに「よし! 落ち着いて呼吸をするんだ」と声を掛ける。

 ほとんどの子どもは、順番が来る前は心配そうにしている。しかし、一度やってみると、びしょぬれで、凍えているにもかかわらず、驚くほど動じなくなる。

 終わると、乾いた服に着替えるため湖岸に走っていき、たき火の周りに集まる。

 スウェーデンでは近年、数十年ほど減少が続いていた氷上からの転落事故が増えており、こうした授業の重要性は増している。

 スウェーデン救命協会(Swedish Life Rescue Society)によると、2021年に氷の下に転落して亡くなった人は16人で、そのほとんどが高齢者だった。通報件数は100件だった。20年の死者は10人。

 イサクソンさんは「スウェーデンでは野外活動が生活の大きな部分を占めており、重要だ」と述べた。(c)AFP