【2月6日 東方新報】この季節になると、中国北部の湖や河川はスケートやソリをして遊ぶ人たちでにぎわう。だが、暖かい日は危険だ。溶けて薄くなった氷が人間の重みで割れ、遊んでいた人が水中に落ちて溺死する事故が後を絶たないからだ。事故続発の原因として、地球温暖化による暖冬や都市部のヒートアイランド現象が指摘されているが、最近では「網紅(ワンホン)」とよばれるインフルエンサーの投稿がやり玉にあげられている。

 北京市郊外には、険しい山々を縫うように美しい河川が流れている。冬季は雪と氷に閉ざされて秘境となるが、その絶景を紹介するアウトドア系ブロガーの投稿が人気だ。雪景色の山々が凍った川面にキラキラと反射している。氷の上でポーズを取る若い女性の姿は映画のワンシーンのようだ。ある投稿には「空中の鏡」というキャプションが付けられていた。

 中国メディアによると、こうした絶景を多くのブロガーが宣伝したため、フォロワーから「トレッキングに行きたいので、詳しく行き方を教えてほしい」などと問い合わせる投稿が相次いだ。親切なブロガーが「ここで丁字路を右へ」などと地図付きで詳細な道案内の返信をしたため、これまで「秘境」だった河川の両岸には、週末とも鳴ると数百台の自家用車がずらりと並ぶようになってしまった。

 見物客を当て込んでスケート靴などを貸し出す業者も現れた。「毎日たくさんの人が来ているので、一日中滑っていても安全です」などと根拠のないアピールをする業者も多いという。

 川沿いを歩くと、凍った川面には氷上釣りの跡とみられる穴が大量に残され、氷の上で写真を撮る人、氷に穴を空けるドリルを持った釣り人、子ども連れでスケートを楽しむ人であふれている。川幅は約400メートル。中には中州まで歩いて渡る大胆な人もいる。

 突然、バリバリと音が響いた。オート三輪車が氷上を近づいてくるのだ。さすがに、重さで氷が割れるのではないかと心配する人たちもいる。「氷は割れないか」と聞いても、三輪車の運転手は「ここは氷が厚いから大丈夫」と意に介していないようだった。

 こうした事態について、地元紙の北京日報(Beijing Daily)(電子版)は「ブロガーの『草植え』によって、危険な川や湖が『聖地』に変わった」と皮肉を込めて報じている。

「草植え(中国語で「種草」)」とは、インフルエンサーが魅力的な投稿をして、フォロワーたちに欲望を植え付けるという意味のネットスラングだ。

 インフルエンサーに「草植え」されたフォロワーたちは、宣伝された景勝地に行ったり、商品を購入したり、逆にあきらめたりする。「草植え」の派生語で、欲望が解消される「草を抜く(中国語で「撥草」)」というスラングもある。

 記事で取り上げられた地域では死亡事故は報じられていないが、より市街地に近い湖や河川では氷を踏み割って溺死する事故が相次いでいる。中国の野外では、一定の安全基準を満たした場所以外でのスケートなど氷上活動は禁止されており、違法な氷上活動が死亡事故につながっている。

 こうした事態を問題視した北京市の担当部署は、このシーズンに氷上での説得や制止を778回実施し、うち11件を立件し、1000元(約1万9406円)の罰金を科している。一方、雪や氷をテーマにしたインフルエンサーの投稿は1000万回以上閲覧されるケースもある。インフルエンサーたちの「危ない草植え」と当局による「草抜き」のイタチごっこはまだまだ続きそうだ。(c)東方新報/AFPBB News