【2月2日 Xinhua News】「素敵な詩の朗読をありがとうございます。谷川俊太郎の詩をもう1篇紹介させてください…」

 中国浙江省の台州市新聞伝媒中心(集団)台州総合ラジオFM98・7でパーソナリティを務める小雅(しょうが、仮名)さんは1月28日午前、日本人リスナーの桧山良直さん(61)からのメールを受信した。広島県東広島市に住む桧山さんは、メールの中で谷川俊太郎の詩について小雅さんに語った。

 2人は数カ月前、偶然のラジオの電波がきかっけで知り合い、やり取りをするようになった。

 小雅さんのラジオ局に、見慣れない日本の差出人からの手紙が届いたのは昨年8月のことだった。同僚と会議中だった小雅さんは、手紙を開いて読み上げた。

 差出人の桧山さんは中国語で、日本で台州総合ラジオの電波を7分間受信したことを伝え、ベリカード(受信確認証)の返信を求めていた。放送を録音したCDも添えられ、文末には「私の受信を確認していただければ、何よりの幸せ」と記されていた。

 ベリカードはベリフィケーションカード(Verification Card)の略で、受信確認証、受信証明書などと訳される。本来の放送エリアから離れた地で放送局の番組を受信した際に、受信場所や放送内容が分かる情報を記載した「受信報告書」を送ると発行してもらえる。ラジオ放送の遠隔受信愛好者には、ベリカードを収集している人も多い。

 桧山さんは、中国に手紙を送るに当たり、中国語の教材を買い、機械翻訳の力も借りたという。手紙には返信費用として、事前に入手した中国の10元札(約200円)も同封されていた。

「本当に不思議だった」と小雅さんは話す。FM放送の電波が届く範囲は通常100キロ程度だが、東広島市と台州市は直線距離で約1200キロある。桧山さんが受信した電波は、同市にある標高1400メートルの括蒼山の山頂から発信されており、市内でも受信できない場所がある。ラジオ局の技術者によると、大気の電離層に特殊な気象現象が起こらなければ、基本的にあり得ないという。

 桧山さんは、そのわずかなタイミングで運よく電波をキャッチした。台州総合ラジオは、桧山さんが2022年7月27日の午後に同局の放送を7分間受信し、内容は情報番組と広告だったと確認した。

 桧山さんは、電波の遠隔受信が以前からの趣味で、受信をすると、いつも発信源の都市と放送局を調べていた。海外の放送局に送った手紙が番組で取り上げられたこともあり、海外のリスナーから手紙をもらうこともあった。

 小雅さんは桧山さんへの返信に、証明印を押したベリカード、台州市の風景と放送局のビルの絵はがき、同僚と撮った写真を同封した。小雅さんは「電波が発信された場所を桧山さんに見てもらいたかった」と話す。手紙の本文は、日本に留学中の娘に日本語に翻訳してもらったという。

 桧山さんからは「40年以上続けてきた趣味の中で受け取った最も素敵な贈り物です。台州を訪れる日を楽しみにしています」と返事があった。以来、2人はメールで交流を続けている。

「これは永遠に消え去ることのない電波です。昔ながらの音声放送が今なお生命力を持っている証しです」と小雅さんは語った。小雅さんがこの出来事をSNSの微博(ウェイボー)に投稿すると、閲覧数は1400万回近くとなり、転送や「いいね」、コメントは10万余りに上った。

 桧山さんが28日のメールで小雅さんに紹介した谷川俊太郎の詩は「朝のリレー」。詩は世界で朝はリレーのように東から西へと駆け巡るという内容で、桧山さんはメールの最後に次のように記していた。「私の国の日本とあなたの国の中国では距離はありますが、私が見た朝日をあなたは1時間後に見ることになるのです」(c)Xinhua News/AFPBB News