【2月1日 東方新報】あなたが街を歩いていて偶然、有名人に出会ったらどうするだろうか?素知らぬ顔をして通りすぎる?それとも急いでスマホで撮影してラインに送ってみんなに自慢する?

 実は、中国で「有名人を勝手に撮影して良いか否か」の議論がわき起こっている。そのきっかけは今年1月、上海で起きた暴行事件だった。

 それは上海の路上で車を待っていた男性が、数人に殴られて軽傷を負ったというもの。ただのケンカと思いきや、殴った側の一人が実業家でセレブの有名人の男性であることが明らかになった。ケンカの原因は、その有名人男性が、車待ちをしていた男性から盗撮されていると思ったらしい。有名人男性の側が一緒にいた仲間たちと男性に対し手を出し、警察のお世話になったという次第だった。

 この事件に対し人びとの感じ方はさまざまだった。

「パパラッチは殴られて当然」という意見もあれば、「有名人は撮影されてもある程度我慢すべきだ」という意見も出る。

 もちろん、有名人男性の側が暴力を振るったことは許されない。だが有名人であってもプライバシーは尊重されるべきだ。彼が実際に盗撮されていたかどうかは明らかにされていないが、だれでも簡単にスマホで撮影し、される時代にあって、プライバシーや肖像権についてあらためて考えるきっかけとなった。

 ある専門家は「有名人や芸能人のプライバシーや肖像権といった権利は、一般人に比べある程度制限されざるを得ない」とした上で、「彼らが許可なく撮影された場合に、権利侵害に当たるかは、実際の状況で考えるべきだ」と指摘する。

 この専門家によれば、有名人らが、公開されたスケジュールの過程で、なおかつ公共の場所で撮影されたなら、権利の侵害には当たらない。しかし、非公開のスケジュールの中で、自宅や私的な場所で撮影された場合にはプライバシーや肖像権の侵害に当たるという。

 別の専門家は、撮影された写真や映像の使われ方についても指摘する。

 撮影されたものが純粋に個人で楽しんだり、家庭や小さな集団だけで共有されるものならば問題にはならないが、写真が公開されたり、商業目的であったり、不適切な場面で使われて深刻な被害をもたらした場合などには、撮影した側は法的責任を負わなくてはならないと指摘する。

 SNSや動画共有サイトの発展した今の社会においては、盗撮の被害者になるのは有名人や芸能人だけではない。中国の動画投稿サイトでは、女性をナンパしたり、町行く人をからかったり、いたずらしたりする様子を勝手に撮影して投稿していると思われるものが少なくない。そんな様子を勝手に映されて拡散してしまったら、あなたも被害者になりうる。一方で、それらの投稿者のような目的や悪意がなくても、例えば、あなたが、日常生活の1コマと思って屋台で働く人の写真を勝手に撮ってSNSに公開したら、今度は加害者になるかもしれない。

 専門家たちによれば、一部の人の中には「公共スペースで撮影したものや、非営利目的で公開したものならOK」という誤解があるという。だが、実際の法律上は、撮影であろうがその後の使い方や公開の仕方であろうが、全てにおいて撮影された側の同意が必要で、そうでない場合には肖像権の侵害や名誉毀損(きそん)に当たる可能性がある。

 軽視されがちと言われてきた中国社会におけるプライバシーの意識が、確実に変化しつつあることが今回の議論からも分かる。(c)東方新報/AFPBB News