【1月31日 東方新報】中国で旧暦の正月5日「初五」(今年は1月26日)は、お金の神様「財神」をわが家に迎える大切な日だ。行動制限のない3年ぶりの春節(旧正月、Lunar New Year)の大型連休中である。財神をまつる各地のお寺や廟(びょう)はにぎわいを取り戻した。

 元から明の時代の豪商、沈万三(Shen Wansan)を出した上海郊外の水郷、周荘鎮(Zhouzhuang)。世界の名所などを紙で再現したテーマパーク「カートン・キング」では1月26日の旧暦正月5日に合わせて、コインで敷き詰めた道路を沈万三に模した「財神」やお供の者たちが練り歩くイベントが開催された。

 家族3人で遼寧省(Liaoning)からテーマパークを訪れた李天華(Li Tianhua)さんは、「財神をお迎えして、今年は金運に恵まれると思います」と語る。2015年にも家族で周荘を訪れていたが、今年は当時よりも街に活気があるという。

 周荘で「財神」とあがめられる沈万三とは、農民から身を立て、その商才によって家を大きくした大富豪で、町を修復するなど市民のために尽くしたが、皇帝に嫌われて僻地(へきち)に流されてしまう。

 周荘の庶民は流された沈万三を哀れみ、その才覚や人徳を現代に伝えている。例えば、沈万三が好んで食べたといわれる豚肉の足先のしょうゆ煮込み「万三蹄」は周荘の街角でよく売られている名物料理だ。

 名前の由来が面白い。この料理は中国語で本来「猪蹄(Zhuti)」と呼ばれる。ある日、皇帝から料理の名前を聞かれた沈万三は、皇帝の姓が「朱(Zhu)」と同じ発音であることから、答えた自分が罰せられることを恐れ、とっさに「これは万三蹄(Wansanti)です」と自分の名前で紹介して難を逃れたという。

 この機転を面白がった周荘の市民がそれ以来、愛着を込めてこの料理を「万三蹄」と呼んでいるのだという。

 周荘の沈万三だけでなく、中国各地には地元出身の豪商にちなんだ名物料理がある。唐の時代、長安の行商人からガラスの商いで身を起こし、巨万の財をなした王元宝(Wang Yuanbao)もその一人だ。長安は、現在の陝西省(Shaanxi)西安市(Xi’an)付近の古都である。王元宝は貧しい行商だったが、ある日留守宅に泥棒が入り、無一文になった。自暴自棄になって自殺しようとしたところ、財神が夢枕に立ち、貴重だったガラスの産地を教えてもらって起死回生の成功を収めたという逸話が残る。

 その王元宝が好んで食べたというのが中国西北部の乾燥地に群生する藍藻の一種である髪菜(はっさい)だ。髪菜そのものに味はないが、モズクのような食感が楽しめる食材だ。

 中国語では「発菜」と書き、財を成す意味の「発財(Facai)」と発音が同じであることから、商売始めの「初五」にスープなどに入れて縁起物として食べる習慣がある。王元宝の地元である西安では宴会といえば年中、一皿目には髪菜を使った前菜やスープが出てくるのが定番になっている。他にも中国古代の通貨に形が似ているギョーザや団子も中国全土で初五の縁起物だ。

 商売で成功した歴史上の人物にちなんだ名物料理を食べ、新しい年の商売を始める初五。今年は3年ぶりに取引先を招いて宴会を開いた商家も多いという。各テーブルでは「万三蹄」や「発菜」などの由来が話題になったに違いない。(c)東方新報/AFPBB News