■「教えるのはウクライナ語」

 ポホレロウさんは4歳から16歳の生徒11人に、ウクライナ語や文学、海外文学、生物学、地理学、算数・数学を教えている。壁は、学校から持ち帰ったウクライナ語のアルファベットや構文が書かれたポスターで覆われている。部屋の隅には、生物学の授業で細胞を観察するための顕微鏡が置いてある。

「学年が上がると、数学を教えるのは難しい。まず自分で勉強しないと」と笑った。

 以前はロシア語・ロシア文学もカリキュラムに入っていたが今はない。なぜかと問うと「さあ。今はウクライナ語と文学だけ教えている」とだけ答えた。

 生徒の保護者も協力的だという。だが長年ウクライナ政府と親ロ派勢力の対立の舞台となってきたこの村にも、ドネツク州の社会の多くに共通する分断が存在する。ポホレロウさんは、ウクライナでの紛争について「他人を代弁することはできない。皆、それぞれの意見を持っている」と話した。

 1月下旬にポホレロウさんのリビングにいた生徒5人は、ウクライナ語とロシア語を交えて話す。5人とも好きな教科は「ウクライナ語と文学」だと声をそろえた。

■未来への希望

 昨年9月、ウクライナ軍はシャンドリホロベ村を奪還したが、戦争の気配はまだ色濃く残っている。

 生徒の一人オレクサンドルさん(15)は3キロ歩いて教室に来る。その際、舗装路しか歩かないように気を付けているという。「地雷を踏んで吹き飛ばされたくない」と話した。

 オレクサンドルさんの近所に住み、クラスメートでもあるドミトロさんは、近くの村では森を歩いていた2人が仕掛け爆弾の犠牲になったのだと言う。

 ポホレロウさんは、学校再建のための予算が確保されたことから、少しでも平穏が戻ることを祈っている。だが、子どもたちが将来の夢をかなえるための手助けができるのは、現時点ではポホレロウさんしかいない。

 オレクサンドルさんは警察官になりたいと言う。ダリアさん(13)は銀行員になるのが希望だ。

 ポホレロウさんは子どもたちの将来を心配しているとし、「もし心配じゃないのならこんなことしてないよ」と話した。(c)AFP/Susannah WALDEN