【2月12日 AFP】フランスとスイス国境のジュラ山脈(Jura Mountains)。標高1200mに位置するリズーの森(Risoud Forest)には、樹齢数百年のトウヒ(スプルース)の木が生い茂っている。

 トウヒの材質はアコースティックギターやバイオリンに最適とされ、世界中の弦楽器職人からの需要が非常に高い。しかし、気候変動で乾燥と温暖化が進み、トウヒが生む独特の音色も脅かされている。

 トウヒはスイスで最も一般的な木だ。ジュラ山脈の安定した気候はこれまで、弦楽器向けの木材生産に最適だった。

 弦楽器向けの木材として条件を完璧に満たす木は、1000本に1本、1万本に1本と言われるほど非常に希少だ。樹齢は200~400年、幹の根元の直径は50センチ以上。また節があったり、樹脂が流れ出たりしていると使えない。

■「なくなってしまうかもしれない」

 フランス国境に近いスイス・ルブラッシュ(Le Brassus)村にある木材加工会社「スイス・レゾナンス・ウッド(Swiss Resonance Wood)」の工房では、職人が薄い木の板にギターの輪郭を描いていた。積み上げられている何千枚もの板は、数年かけて乾燥させる。

「クラシックギターやフォークギターなど約2000本分のトップ板(ギターの表側の板)がある」と社長のテオ・マニャン(Theo Magnin)氏は説明する。木材は、欧州域内、日本、メキシコなどに輸出している。

 しかしマニャン氏は「10年後や20年後、楽器の材料がどこで調達されるようになっているのか想像もつかない」と危惧する。

 ブベイ(Vevey)の町とレマン湖(Lake Geneva)を見下ろす場所に工房を構え、年に2~4本のギターを作るという弦楽器職人のフィリップ・ラメルさんも同様に懸念を示す。ラメルさんは、スイス・レゾナンス・ウッドから材料を調達している。

「いつかこの木がなくなってしまうことを想定して、(木材を)確保しておかなければならない」とラメルさん。レバノン産のヒマラヤスギは代用できるかもしれないが、品質が落ちると言う。

 そうした状況を考慮してトウヒ材はもっと大切に利用すべきだとし、工場で大量生産するようなやり方にも疑問を投げ掛けた。「ギターは大衆的な楽器だが、そのうちに高級品になるかもしれない」

 マニャン氏は、将来的には「トウヒに替わる木材を探さなければならないだろう」と言う。

「未来の音楽は、そういうもの(代替材)から生まれることになる」 (c)AFP/Agnès PEDRERO