【1月27日 AFP】17世紀のフランスの貴族女性の歯の秘密が、死後400年を経て明らかになった。女性は、歯が落ちないように黄金の針金を使っていたのだった。

 1988年、仏北西部マイエンヌ(Mayenne)県ラバル城(Chateau de Laval)で行われた考古学調査で、1619年に亡くなったアンヌ・ダレグレ(Anne d'Alegre)夫人の遺体が発見された。

 遺体は鉛のひつぎに収められ、防腐処置が施されており、骨格と歯の保存状態は驚くほど良かった。歯科装具の使用が確認されたが、当時のスキャン技術ではそれ以上の調査はできなかった。

 今回、考古学者と歯科医から成るチームは、X線を使って3次元画像を作成する「コーンビームCT」と呼ばれるスキャン技術を採用。夫人は歯周病で緩んだ歯を、黄金の針金で固定していたことが分かった。17世紀にはすでに入れ歯があったが、夫人の入れ歯は当時よく使われていたカバではなく象の牙でできていた。

 だが、この華麗な歯科技術について、論文の主著者を務めた国立事前考古学研究所(INRAP)の考古学者、ローゼン・コルテール(Rozenn Colleter)氏は「歯の状態を悪化させるだけ」だったろうと指摘した。金の針金は時間が経つと締め直す必要があり、周辺の歯がいっそう緩んだ可能性があると言う。

■歯で分かる「大きなストレス」

 ダレグレ夫人が痛みに耐えていたのは、医学的な理由だけではなかったようだ。外見と社会的な価値や地位が結び付けられていた時代、貴族の女性には大きなプレッシャーがあった。

 コルテール氏によると、ダレグレ夫人と同時代、歴代フランス国王の主治医として同様の歯科装具を作製したアンブロワーズ・パレ(Ambroise Pare)医師は「歯を失うと、話し方まで堕落する」という言葉を残している。

 困難な宗教戦争の時代を生きた「ソーシャライト」のダレグレ夫人にとって、笑顔は特に重要だったに違いないとコルテール氏は述べた。

 ダレグレ夫人は夫との死別を2度経験し、息子も20歳で戦死、自らは54歳で病死した。その歯は「多大なストレスを経験したことを示している」とコルテール氏は指摘した。

 研究結果は考古学誌「ジャーナル・オブ・アーキオロジカル・サイエンス(Journal of Archaeological Science)」に掲載された。(c)AFP/Juliette Collen