【1月30日 AFP】「すてき」。オランダ中部レリスタット(Lelystad)のタトゥースタジオで施術を受けたジャクリーヌ・ファン・シャイクさん(56)は、鏡に映る自分を見つめ感嘆の声を上げた。乳房の切除手術を受けた傷痕の周りが花とチョウで彩られている。

「もう傷痕ではなく宝物にしか見えない」

 17歳の息子がいるシャイクさんは2020年10月、乳がんと診断された。化学療法や広範囲に放射線を照射する治療のほか、21年4月には両乳房の切除手術を受けた。

 オランダ保健当局の発表では、同国で乳がんと診断される女性は約7人に1人だ。国内のがん専門サイトによると、このうち3分の1は乳房の切除手術が必要となる。

 ミリアム・スヘッフェル(Myriam Scheffer)さん(44)も切除手術を受けた一人だ。胸に「大きな鳥が翼を広げているようなタトゥー」を入れたかったが、傷痕はまだ癒えていない。そこで昨年、同じ境遇にある女性たちに無料でタトゥーを施す財団を設立した。

 シャイクさんが、初めての顧客だ。

 乳がんのサバイバーへのタトゥーの施術は、米国やフランスですでに行われている。スヘッフェルさんはこの活動を欧州全土に広げたいと考えている。

 シャイクさんへの施術を終えたタトゥーアーティストのダリル・ビール(Darryl Veer)さんはほっとしたような笑みを見せ、「誰かを幸せにすることが、タトゥーでできる最も素晴らしいこと」だと話した。

 シャイクさんの胸から肩には、傷痕の下に根を張ったような赤い花と青いチョウが彫られている。財団のタトゥーアーティストたちは、傷痕に直接タトゥーを施すことはしない。

 乳房を失った後、「肉体的にも精神的にもとても苦しんだ」と言うシャイクさん。「毎日シャワーを浴びた後に大きな鏡の前に立ち、傷痕を見て、自分が失ったものを目にしていた」と話す。

「家の鏡を処分しようとすら思っていた。でも、今はそのままでも平気だ」と続けた。(c)AFP/Charlotte VAN OUWERKERK