【1月17日 東方新報】中国で人工知能(AI)によるディープフェイク(画像合成)技術を使った「顔変換アプリ」が人気となっている。

 例えば人気アプリ「AIビデオ顔変換ショー」に自分の顔写真を取り込むと、ウェディングドレスやコスプレ風伝統衣装「漢服」、セクシー衣装などをまとったショート動画が生成される。インターネットでは「1枚の写真で一瞬に動画の別世界へ行ける」などと多くの顔変換アプリの宣伝がある。

 こうした合成映像は、ディープラーニング(深層学習)や仮想現実(VR)に代表される機械学習アルゴリズム(計算方法)を使って作られる。中国の映画・ドラマ界では、作品収録中に出演俳優がトラブルで降板した際、撮り直しをせずに別の俳優の顔を合成映像で「はめ込む」ことが少なくない。昨年6月に配信されたネットドラマ「買定離手我愛你」では、不祥事が発覚した主演俳優の翟天臨(Zhai Tianlin)さんの顔が俳優の楊仕澤(Yang Shize)さんに置き換えられていた。楊さんの顔は合成画像なのだが、知らずにドラマを見ると特に違和感がないほど精巧だった。

 ディープフェイク技術の普及に伴い、問題も起きている。

 女性漢服モデルの楼(Lou)さんは、ある顔変換アプリで自分が作成した動画が無許可で利用されているのを発見した。このアプリは、ユーザーが写真を取り込むと自分の漢服姿の動画が作成できるもので、68~198元(約1295~3771円)の料金を取っていた。楼さんはアプリを開発した上海市の業者を提訴。インターネットを巡る案件を専門に審理する司法機関として中国で初めて設立された杭州インターネット裁判所は昨年、業者の著作権侵害を認定し、楼さんへの謝罪と5000元(約9万5232円)の賠償を命じた。

 しかしこうした事例はまだ少なく、悪質な事例がはびこっている。ショート動画プラットフォームでは、ある投稿主が有名な女優や歌手のセクシー動画などを大量に生成し、80万人のフォロワーがいる。また、詐欺事件に関与したとみられるペーパーカンパニーの動画紹介で、別人の顔を「経営者」に仕立てたケースもある。

 中国国家インターネット情報弁公室は昨年、「インターネット情報サービスディープフェイク管理規定」を発表。合成映像には目立つ位置にマークをつけることや、サービス提供者は違法に利用されないよう責任を負うことを明記している。先端技術が先行して対策が後追いとなるのは、めまぐるしく社会が変化していく中国の現状を象徴しているようだ。(c)東方新報/AFPBB News