【1月11日 東方新報】中国各地で春節(旧正月、Lunar New Year、2023年は1月22日)を迎える準備が大詰めを迎えている。新型コロナウイルスの感染対策が緩和されたことから3年ぶりの帰省を計画している人も多いという。季節感が薄れた現代中国でも、やはり春節は別格の扱いのようだ。

 北京の外資系企業に勤める李さん(28)は、夫と一緒に2歳の子どもを連れて陝西省(Shaanxi)の実家に3年ぶりの帰省を予定している。だが、1週間程度の法定休暇だけでは、同じ陝西省内にある夫の実家と自分の実家を回ることはできない。ましてや連れて帰る子どもは双方の両親にとっては初孫である。時間が足りないのだ。

 刻々と変化するコロナの感染状況や交通規制を気にしながら、職場に長期休暇の願いを出し、何とか高速鉄道の切符も押さえた。

 休暇の次は金である。お土産とお年玉を準備しなければならない。夫と相談して、李さんは12個入りの「八宝粥」の缶詰を何箱も買い込んだ。これから春節まで毎日、八宝粥を中心に食べる計画だという。

 八宝粥とは、米、アワ、もち米、アズキ、ナツメ、ピーナッツ、クルミ、栗などを甘く煮たおかゆだ。缶詰にして1個3~4元(約58~77円)で売られており、物価上昇が激しい中国にあって貴重なお値打ち保存食になっている。

「春節準備で食べるものは八宝粥ではなくて臘八粥(かゆ)ですね。私たち家族の場合は帰省費用をねん出するために安価な缶詰を選んだだけで、安くて栄養があれば何でもよかったのですが…」。李さんが説明する。

 臘八粥は、五穀豊穣を祝って、来たる春節を準備するために旧暦12月8日に食べる中国伝統のお粥だ。仏教が中国に伝わった際、お釈迦(しゃか)様が苦行で倒れ、羊飼いの娘が差し出した「羊乳の粥」を食べて回復し、悟りを開いた話が広く伝わったことから、この日にお粥を作り、仏に供える習慣が生まれたという。

 八宝粥は臘八粥と呼ばれることもある。材料は地域によって異なるが、基本的には何種類もの穀物やナッツ類を甘く煮たおかゆである。李さんに言わせれば、春節準備で食べるのが「臘八粥」で、それ以外の目的で食べるのは「八宝粥」ということなのだろう。

 要するに李さんが毎食、八宝粥の缶詰を食べるのは、春節に帰省した時に配る親類へのお土産やお年玉のためである。3年ぶりの帰省である。金はいくらあっても足りないのだ。

 春節で帰省し、老いた親に孫の顔を見せ、豪華な贈り物をすることは中国で最も大切な道徳「孝」である。一人っ子政策が長く続いた中国では、親子の絆は想像以上に強くなっているといわれる。

 学生時代から帰省費用を貯めるために八宝粥の缶詰を食べていたという李さん。「家庭を持っても春節前の八宝粥が恒例になりそう」と苦笑いする。

 コロナの再拡大が伝えられる中国。おかゆをすすって準備する孝行娘や息子たちは無事帰省できるだろうか。(c)東方新報/AFPBB News