【1月6日 AFP】厳格な新型コロナウイルス対策を突然緩和して以降、感染が爆発的に拡大している中国では、薬を必死に求める人々が、価格のつり上げや詐欺が横行する通販市場に追いやられている。

 中国の国民は長年、医薬品の汚染や治験データの改ざん、緩い規制といった医療業界の問題を目にしており、多くが国産の医薬品に懐疑的だ。

 コロナに感染した家族の治療薬を探していたチウさん(22)は、香港の製薬企業「致泰薬業(Ghitai Pharmaceutical)」の代理人を名乗る人物とオンラインでやりとりし、数千ドルを支払ったが、薬は届かなかったという。

 米製薬大手ファイザー(Pfizer)が開発し、中国政府の承認を得たコロナ経口治療薬「パクスロビド(Paxlovid)」の在庫があり、中国本土に郵送できると言われたという。

 チウさんはよくできた「公式」ウェブサイトに誘導された後、AFPが確認した支払い記録によると、パクスロビド6箱を1万2000元(約23万円)で購入している。だが、薬は届かず、代理人とは連絡がつかなくなった。チウさんは「無力さを感じ、怒り心頭に発した」という。

「不快極まる行為だ」とチウさん。「人の命を救おうというときは、一刻一秒を争っているのに」

 致泰薬業はAFPに対し、コロナ治療薬の販売をうたう偽サイトについて認識していると説明。「当社はこれまでコロナ治療薬を販売したことはなく、詐欺被害を防ぐため消費者に注意喚起をしている」と述べた。警察にも通報済みだという。

■高額転売

 中国当局は一部の病院や診療所に対し、パクスロビドの配送を開始したと発表したが、大多数の人にとっては入手困難なままだ。

 北京や上海など大都市の診療所はAFPの取材に、パクスロビドの供給はなく、処方のめども立っていないと回答した。

 通販市場ではわずかにあった在庫も即売り切れ、高値での転売行為が横行している。

 AFPが接触したある転売業者は、パクスロビド1箱を1万8000元(約35万円)で販売していると述べた。公式価格の約9倍だ。

 また、南部の深セン(Shenzhen)から出荷するが、届くまで「時間がかかる」と説明。薬の調達方法については答えず、AFPの取材班だと明かすと連絡を絶った。

■「絶望と無力感」

 国家安全省は2日、「感染症関連の偽造医薬品や関連商品の製造・販売における違法・犯罪行為」の厳重な取り締まりを命じた。

 それでも高齢の祖父のために薬を入手しようとしたシャオさん(25)のような人たちにとって、闇市場は今なお最後の頼みの綱だ。

 シャオさんは、オンラインのパクスロビド転売業者に1万8000元(約35万円)を請求された時、「すっかりうろたえた」という。手の届く額ではまったくなかった。

 シャオさんの必死の思いは、数日後に祖父が亡くなると「絶望と無力感」に変わった。

「どうして薬を入手できる人がいるのか分からない」とシャオさん。「私たちは1箱も買えない。なのに、なぜたくさん持っている人たちがいるのだろうか?」 (c)AFP/Matthew WALSH with WANG Jiawei