【1月2日 AFP】フランス北部の静かな村の郊外にあるワイン畑を、体重1.4トンの雄牛「アストン」が、背にザビーヌ・ルアス(Sabine Rouas)さんを乗せ悠々と歩いている。

 通りかかった車が路肩に止まると、運転手が困惑気味に車から降りて来て、携帯電話で撮影を始めた。

 アストンが散歩に行くたびによく見られる光景だ。

 アストンは地元ムーズ(Meuse)県では以前から有名だった。しかし、今ではインターネットを通じて世界中に知られている。

 ティックトック(TikTok)のフォロワー数は6万2000人、ユーチューブ(YouTube)のチャンネル登録者とフェイスブック(Facebook)のフォロワー数はそれぞれ9万人に上る。

 アストンの散歩風景は牧歌的だ。しかし、アストンとルアスさんの物語は悲しいエピソードから始まる。

 きっかけは、ルアスさんの愛馬が死んだことだった。「二度と馬の話は聞きたくないと思った」ほど悲しんだとAFPに語った。ルアスさんは当時、隣国ルクセンブルクに住んでおり、自宅の隣は牧場だった。

「馬とはまだ接することができなかったけど、大きな動物と触れ合いたいと思った。隣の牧場に行くと、他の牛よりも警戒心が強そうな牛がいた」「なでてあげると、その雌牛が賢いことが分かった。名前を呼ぶと、足を上げてあいさつをしてくれるようになった」

 この雌牛の子どもがアストンだ。

 アストンが生まれると、ルアスさんは農場を持っていないにもかかわらず、牛の親子を買い取るという劇的な決断をした。

「完全におかしくなったとみんなに言われたけど、その通りだった。何をすればいいのか全く分からなかったのだから」

 猫をしつけたことはあり、人間と動物には絆が生まれると信じていた。アストンを一緒に暮らせるよう訓練することにした。だが、簡単ではなかった。

 3か月の間に少なくとも38回はアストンから落ちたという。だが、9年後の今、アストンは低い障害物を跳び越し、ギャロップで駆けるだけではなく、横歩きまでマスターしている。

 アストンに乗るようになったのは、「私が馬に乗っているのを見て、アストンも同じように乗せたがった」からだと話す。

「それを見てみんな、アストンは自分が馬だと思っているのだと言う。アストンは馬のマネをするのが大好きなのは確かだ。でも、アストンがやりたがらないことを強制することはない」と話した。「アストンが障害物を飛び越えるのは、そうするのが大好きだからだ」

 アストンは、乗馬イベントに引っ張りだこで、映画に出演したこともある。ルアスさんは、牛の乗り方を教えてほしいと頼まれることもあるという。

「遠く離れた日本でもアストンが有名だなんて、まだ信じられない」 (c)AFP/Kenzo TRIBOUILLARD