中国のピリ辛スナック「辣条」 「思い出の味」が上場
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【12月22日 東方新報】中国でスナック菓子「辣条(Latiao、激辛のひも状スナック菓子)」を食べたことのない子どもはいないだろう。ピリ辛でサクサクした食感がクセになるジャンクフードの代名詞でもある。原材料は小麦粉にトウガラシ、砂糖や塩など。70グラム入りの大袋でも5元(約98円)前後だ。コンビニエンスストアやスーパー、学校の売店など子どもが訪れる店には必ずといっていいほど売られている。日本なら「うまい棒」のような立ち位置である。
小麦粉に調味料を混ぜて焼くだけという手軽さから零細メーカーが多く、大量の食品添加物が使用されているとの懸念もあって、中国の親たちは子どもたちに辣条を与えたがらないようだ。
ジャンクフードと見下されてきた辣条に革命を起こそうとしているのが、辣条業界の最古参メーカー「衛竜美味全球(Weilong)」だ。早くから工場の近代化に取り組み、生産ラインを映像で公開するなど安心を売りにしたブランド戦略を打ち出している。衛竜は12月15日に香港証券取引所に新規上場を果たした。
創業者の劉偉平(Liuweiping)さんは中国内陸部の湖南省(Hunan)平江県(Pingjiang)の出身。平江県は、「醤干豆腐」というトウガラシや醤油で味付けした乾燥豆腐の産地として知られる。1998年に湖南省で大洪水が発生すると、豆腐の原料となる大豆の値段が倍以上に跳ね上がった。劉さんは原材料を大豆から小麦に切り替えることを思いつき、小麦産地の河南省に工場を作ることにした。醤干豆腐は大人向けの副菜だが、小麦に少し甘みを加えたところ、子ども向けのスナック菓子として飛ぶように売れた。
時代も子ども向けのスナックを必要としていた。中国は1990年代から市場経済が深く浸透し、両親が長時間労働に駆り立てられていく。子どもは小遣いを与えられ、スナックを食べるようになったのだ。
当時の中国は食品の安全基準も現在ほど厳しくなく、スナック菓子メーカーが乱立する。スナックの代名詞である辣条にも「ジャンクフード」というマイナスイメージが次第につきまとうようになった。しかし、劉さんは辣条が醤干豆腐という伝統食品の流れをくむ食品であることを宣伝し、徹底した工場の近代化をはかった。劉さんは「株式上場は夢だった」と語る。
株式上場には厳しい審査があるが、衛竜は2度の失敗を経て、3度目で上場が認められた。勢いのある会社が次々に大型上場を果たす中国で、スナック菓子メーカーの上場は大ニュースとはいえない。しかし、中国メディアは一斉に「思い出の味が上場」と大きく取り上げた。その思いはなんとなく伝わってくる。仕事、仕事で忙しく、「家庭の味」や「伝統の味」が失われた中国で、スナック菓子は誰でも知っている「思い出の味」なのだから。(c)東方新報/AFPBB News