【12月19日 People’s Daily】中国陝西省(Shaanxi)漢中市(Hanzhong)の中心部から70キロ離れた留壩県(Liuba)。この人口5万人に満たない山間部の街に、小さなサッカーボールが大きな変化をもたらしている。

 13年前、留壩県は教育基盤の弱い国家級貧困県だった。当時、留壩県中学校(日本の中学と高校に相当)の校長だった陳軍(Chen Jun)さんは、スポーツと教育を融合した上海市の取り組みに啓発を受け、子どもたちにサッカーを教えた。

 泥だらけのグラウンドにラインを引き、レンガでゴールを作り、サッカー場を作った。陝西省青年チームにかつて所属していた数学教師の張素洋(Zhang Suyang)さんがコーチとなり、サッカーをしたい子どもたちにユニホーム200着とボール200個を与えた。

 数学期が過ぎた後、サッカーを始めた生徒たちの学業成績は低下することなく、多くが希望した大学に入学。陳校長の教育哲学は広く支持された。

 留壩県中学校は2014年になると、学年ごとにチームを設立し、科学的トレーニングを導入した。授業の合間に2時間ほど練習し、チームが遠征する時は教師が同行して生徒の補習を行った。近年は多くの国家代表の少年チームや青年チームに選手を送り出し、50人以上がサッカーを通じて大学に入学。300人近い生徒が国家1級・2級運動員の資格を手に入れている。

 現在、留壩県は全国青少年サッカーのパイロット県に選ばれ、省内の学校リーグで何度も栄冠を獲得している。留壩県中学女子チームは県級中学校としては初めて、中国青少年サッカーリーグ(15歳以下)決勝戦に出場を果たした。

 留壩県はこのサッカーブランドを生かした産業育成を開始。2016年から県内の営盤村(Yingpan)に青少年サッカーのトレーニング基地の建設を始めた。陳さんは「標高は約1600メートルで、森林被覆率は90%を超え、夏の平均気温は20度未満。サッカーの練習にはうってつけの環境です」と話す。

 トレーニング基地には6つの練習用サッカー場と1つの標準サッカー場があり、住宅施設8棟、レストラン2店があり、一度に600人を受け入れられる。2018年から2021年にかけて200以上のチームが訪れ、30数回にわたり大会を開催。5万人以上の観光客が集まった。中国女子サッカーチームは昨年8月にここで非公開のトレーニングを行い、アジアカップ優勝を果たした後に感謝の手紙を送っている。

 現地では民泊施設も開拓し、28の農家がトレーニング基地と協力する協定を交わした。この2年間で約300人の住民がトレーニング基地のサービスや清掃、メンテナンスなどに関わり、100人近い雇用を創出した。県の統計によると、サッカーは年間約1000万元(約1億9400万円)の収入をもたらしている。

 営盤村第1書記の馬俊(Ma Jun)「10年前、営盤村は県内で最も人里離れた村の1つで、3分の1は貧困世帯でした」と振り返る。現在はスキー場を建設し、10キロ強のサイクリングロードも整備。サッカースクールとリハビリテーションセンターを造り、サッカーをテーマにしたスポーツ文化公園を造成している。営盤村を「スポーツとレジャーの里」にする目標に向かって突き進んでいる。(c)People’s Daily/AFPBB News