【12月17日 AFP】何十年も人々の意識から遠ざかっていた核戦争の悪夢が、ロシアのウクライナ侵攻によってよみがえっている。戦況のこう着状態から脱するために、ロシアが核兵器を使用するのではないかという懸念だ。

 国連安全保障理事会(UN Security Council)の常任理事国であるロシアおよび米、英、中国、フランスの5か国は、核拡散防止条約(NPT)で核保有国として認められている。

 だが、北大西洋条約機構(NATO)元事務総長補のカミーユ・グラン(Camille Grand)氏は「核保有大国が、その地位を利用して核兵器使用をちらつかせながら通常戦争を行ったのは初めてだ」とAFPに指摘した。

 第2次世界大戦(World War II)の終盤に広島・長崎に米国が原爆を投下した後、冷戦(Cold War)時代のグローバルな安全保障構造を支えた道徳的・戦略的な「核のタブー」は今も維持されている。だが、核をめぐる言説はエスカレートしている。

 ロシアのテレビはウクライナ侵攻開始以降、仏パリや米ニューヨークといった西側諸国の都市への核攻撃について繰り返し論じている。

 匿名で取材に応じたロシアの元外交官は、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は自国の存亡の危機と判断すれば「(核の)ボタンを押すだろう」と警告した。

■軍縮は「崩壊」

 ノーベル賞(Nobel Prize)を受賞した経済学者のトーマス・シェリング(Thomas Schelling)氏は2007年、核兵器使用について「過去半世紀で最も素晴らしい出来事は、それが起こらなかったことだ」と述べた。

 しかし、1945年以降に核の抑止力となった枠組みはずっと前から崩れつつある。米国は、旧ソ連と1972年に締結した弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約を2002年に破棄。その後、中距離核戦力(INF)全廃条約をはじめとする重要協定も失効した。

「軍縮に関しては、新戦略兵器削減条約(新START、New START)以外、すべて崩壊している」とグラン氏は言う。