【12月11日 AFP】観光地を巡り、美しいビーチで写真を撮り、ラテン音楽のリズムに合わせてぎこちなく踊る──ロシア人観光客は、ウクライナ侵攻のさなかでも温かく迎えてくれる旅行先を、祖国から遠く離れたベネズエラの島に見つけた。

 白砂の海岸にターコイズブルーの海が広がる熱帯の宝石、マルガリータ島(Isla de Margarita)。ベネズエラの政治的・経済的混乱が長期化する中、観光客が寄り付かなくなり、西側諸国からは渡航中止勧告が出ている。だが、ウクライナ侵攻を受けてビザ(査証)発給制限や入国制限に直面しながらも、太陽の下で休暇を過ごしたいロシア人にとっては、まさにカリブ海(Caribbean Sea)の天国だ。

「今、ロシア人が行ける旅行先はあまりない。休暇を過ごす場所を探すのは難しい」と、マルガリータ島を旅行中のエカテリーナ・ドルゴワさん(39)は語った。ウクライナ侵攻について尋ねると、「戦争は最悪の事態だ」と一言だけ答えた。

 遠く離れたウクライナではロシアの絶え間ない攻撃にさらされ、いてつくような寒さに耐えながら、大勢が水も電気もない生活を送っている。取材したロシア人ツアー客の中で、ウクライナ侵攻について語ったのはドルゴワさんのみだった。

 発言への反応を恐れる人もいれば、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の戦争を支持する人もいる。

 ロシアのノードウインド航空(Norwind Airlines)が運航するモスクワとマルガリータ島を結ぶ直行便は、ウクライナ侵攻による7か月間の中断を経て、10月2日に再開された。対ロ制裁による飛行制限区域を避けた新路線を、この2か月間で約3000人のロシア人観光客が利用した。

■マドゥロ大統領の「秘策」

 14時間ものフライトになるが、マルガリータ島は手頃な旅行先と受け止められている。12日間の旅行費用は3500ドル(約48万円)だったと、ある観光客は話した。

 島の国際空港では、ロシア語で「ようこそ」と書かれた看板が観光客を迎える。島内観光ツアーからロシア語の通訳まで、何でもそろっている。旅行者が案内役なしでホテルを出ることはない。

 ベネズエラのニコラス・マドゥロ(Nicolas Maduro)大統領は、幅広い協力関係を持つ友好国であるロシアと、年末までに約10万人の観光客を受け入れる協定を結んだ。観光業を、長引くハイパーインフレと通貨暴落で回復の兆しが見えない経済を活性化させる秘策と位置付けている。

 観光客の急増で島の経済には直接の効果が出ており、統計はないものの徐々に回復しつつあると、地元ヌエバエスパルタ(Nueva Esparta)州観光会議所の会長は指摘する。

 ただ、宝飾品やビーチウエアを販売するナカリドさんにとっては、「商品は売れるが、欧米からの観光客でにぎわっていた時ほどではない」というのが実感だ。ロシア人観光客から半額で売ってほしいと値下げ交渉を持ち掛けられ、「ロシア人はいつも値切ってくる」と不満をこぼした。(c)AFP/Barbara AGELVIS