【12月11日 AFP】中東エルサレム(Jerusalem)の旧市街には数十の教会があるが、クリスマスシーズンにやって来るサンタクロースは、パレスチナ人のイッサ・カシシエ(Issa Kassissieh)さん一人だけだ。

 毎年12月になると、イスラエル占領下の東エルサレムにはキリスト教徒がクリスマスを祝いに集まり、街は緑と赤に輝く。

 サンタクロースに扮(ふん)する身長190センチのカシシエさんは元バスケットボール選手で、パレスチナ代表チームのキャプテンとして活躍した経歴を持つ。

 カシシエさんは7年前、築700年の自宅の1階を改造して「サンタクロースの家」を始めた。家ではキャンディーやホットワインが提供され、サンタの膝の上に座ることもできる。

 今年も、赤い服に白ひげの姿でシーズン最初の来訪者を出迎えたカシシエさん。サンタに会おうと並んだ家族連れに「ホー、ホー、ホー!」と笑いかけた。

 エルサレム旧市街は、キリスト教徒だけでなく、ユダヤ教徒とイスラム教徒にとっても聖地だ。カシシエさん自身はキリスト教徒だが、「このサンタクロースの家には、あらゆる宗教(の信者)が訪れる。誰でも歓迎する」と語る。

 イスラム教徒のパレスチナ人少女マルワさん(8)は、「私はキリスト教徒じゃないけど、サンタクロースが大好き。うちにもクリスマスツリーがある」とにっこりした。

 米国から子どもたちを連れて来たアリソン・パーギターさん(52)は、「楽しむのも大事だけれど、クリスマスにまつわる真の物語を知ってほしいと思った」と話した。聖書によればイエス・キリストは、エルサレム郊外のベツレヘム(Bethlehem)で生まれたとされる。

 ただ、サンタクロースの家に来る子どもたちの関心ごとは、もっと現代的だ。「どの子もiPhone(アイフォーン)を欲しがる」とカシシエさんは笑う。「約束は決してしない。『お祈りをしよう、良い子リストに載っていれば、きっともらえるよ』と言っている」

■きっかけは父の衣装

 カシシエさんが子どもの頃、父親は子どもたちのためにサンタに扮(ふん)して楽しませてくれた。その時の衣装を15年前に見つけたのが、サンタになろうと決めたきっかけとなった。

 それ以来、デンマークで毎年開催される「世界サンタクロース会議(World Santa Claus Congress)」に参加したり、米国の「サンタクロース学校」で学んだりして、研鑽(けんさん)を積んできた。米ミシガン州にある「チャールズ・W・ハワード・サンタクロース・スクール(Charles W Howard Santa Claus School)」から発行された、エルサレムで唯一の公認サンタの証明書も持っている。

 サンタに扮するに際し、エルサレムが抱えるデリケートな問題も熟知している。エルサレムは、数十年に及ぶパレスチナ紛争の中心地だ。

「エルサレムから愛と平和のメッセージを伝えるのは特別だ」とカシシエさんは語った。「エルサレムに平和が訪れたら、世界が平和になる」 (c)AFP