【12月6日 AFP】モルドバの首都キシニョフから車で約30分のケトロス(Chetrosu)。れんが・コンクリートの製造を手掛ける工場は、いつもなら機械の音が騒々しく響いている。しかし、エネルギー価格が高騰した今、工場はひっそりと静まり返っている。

 工場の経営者イオン・イグナトさん(60)は、50人の従業員の行く末を思い悩んでいる。

 イグナトさんは10月初旬、1992年以来となる操業停止を決めた。エネルギー価格高騰のため、窯に火を入れて機械を動かす余裕がなくなったためだ。石油・ガスの価格が下がれば、すぐにでも工場を再開したいと考えている。

 一方で、他の市民同様、厳しい冬になる覚悟もしている。

 ルーマニアとウクライナに挟まされた旧ソ連構成国のモルドバは、過去数十年にわたりロシア産ガスに依存してきた。しかし今年3月、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧州連合(EU)への加盟申請に踏み切った。

 政府は11月には、ロシアのエネルギー大手ガスプロム(Gazprom)からの供給が半減すると予想していた。

 昨年にはガス価格が600%上昇。マイア・サンドゥ(Maia Sandu)大統領はルーマニア議会で行った演説で、今冬はガス・電気の供給が途絶する恐れがあると警告した。また、「世帯収入の70~75%が(ガス・電気料金の)支払いに充てられている」と訴えた。

 電力については、以前はウクライナからの供給が全体の30%を占めていた。だが、同国のエネルギー施設へのロシア軍の攻撃を受け、ウクライナはモルドバへの供給を全面停止した。

 残り70%は、東部の親ロシア派支配地域トランスニストリア(Transnistria)の火力発電所から調達していたが、供給は止められた。

 EU加盟国のルーマニアは10月、ウクライナ侵攻で苦境に陥った近隣諸国に割引価格で電力を販売する方針を表明。また、12月3日からはモルドバ向けにガス輸出を開始した。

 モルドバ政府は、市町村に対して街灯を消すよう要請するとともに、各家庭には節電を呼び掛けている。企業についても、電力需要のピーク時を避けて業務を行うよう、営業時間の変更を求めている。

 モルドバ初のクラフトビール醸造所を経営するセルゲイ・リトラさん(36)は、要請に応じた一人だ。現在はピーク時を避けた2交代制を導入。夜シフトは午後11時から午前5時までだ。

「すべてはウクライナでの戦争がいつ終わるかにかかっている。今回の戦争で、エネルギーを自給自足する必要性を誰もが悟った」と、リトラさんはAFPに語った。

 サンドゥ大統領は、ロシア産ガスへの依存について「政治的な脅し」を招くとして、「弱み」を抱えることになると述べた。

 工場経営者のイグナトさんは、この国にとって「これから半年が勝負だ」と話す。

「私たちは片足をロシアに、もう一方の足をEUに置いている。でも、勇気と威厳を持ってEUに両足を置けば、過去30年にわたって(ロシアから)受けてきた脅しから自由になれる」 (c)AFP/Ionut IORDACHESCU / Herve BOSSY