【12月3日 AFP】米ツイッター(Twitter)を所有するイーロン・マスク(Elon Musk)氏が、反ユダヤ主義的な投稿を理由に米ラッパーのカニエ・ウェスト(Kanye West)さんのアカウントを凍結したことを受け、同氏が掲げる「言論の自由絶対主義」の限界が露呈したとの批判が上がっている。

 マスク氏は言論の自由を守るとの名目で、ツイッターのコンテンツモデレーション(投稿監視)チームを解体。さらに、昨年1月の連邦議会襲撃事件をあおったとしてツイッターから追放されていたドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領をはじめ、物議を醸す人物のアカウントを次々と復活させた。

 しかし、凍結されたアカウントの「大規模恩赦」など、マスク氏が唱える言論の自由絶対主義は当初から現実的なものではなく、特にここ数週間にわたり過激化の一途をたどっていたウェストさんの反ユダヤ主義的発言が問題となることは避けられなかった。

 決定打となったのは、ウェストさんが、ナチス・ドイツ(Nazi)のシンボルであるかぎ十字と、ユダヤ民族を象徴する「ダビデの星(Star of David)」を組み合わせた画像をツイッターに投稿したことだった。

 言論の自由に関する著作があるジェイコブ・エムチャンガマ(Jacob Mchangama)氏は、マスク氏が「中途半端な言論の自由の哲学を持っていることが問題だ」と批判。「ときには完全な言論の自由を掲げ、ときには法律を尊重する必要があると言う。だがもちろん、法律はツイッターが事業を展開する世界各国で大きく異なる」と説明した。

 エムチャンガマ氏は、ウェストさんの発言はフランスなど一部の欧州諸国では法的処罰を受ける可能性があると指摘。ただ、ウェストさんは長年にわたる精神疾患が知られており、これが不安定な行動の原因となっているとみられることから、実際にユダヤ人への暴力を扇動したことにはならなかったとの見解を示した。

 ソーシャルメディア上の嫌がらせやヘイトスピーチからユーザーを守るアプリを開発している企業ボディーガード(Bodyguard)によると、ツイッター上ではマスク氏の買収後、ヘイトコンテンツの量が25~30%増加したという。同社の創業者チャールズ・コーエン(Charles Cohen)氏は、ヘイトコンテンツの量はそれから減少したものの、長期的な水準を10~15%上回る状態が続いていると説明。マスク氏の言論の自由に関する方針は「技術的にも、経済的にも、論理的にも実行不可能」だと指摘した。

 人気ポッドキャスト番組「メイキング・センス(Making Sense)」の司会者サム・ハリス(Sam Harris)氏は今週の放送で、「いわゆる言論の自由絶対主義は幻想にすぎない」と批判。「そのような立場を取っていても、それを実際に維持できている人はほとんどいない」とし、ソーシャルメディアが「デジタル下水道」になるのを防ぐためにはある程度のコンテンツモデレーションが必要であると指摘した。(c)AFP/Eric RANDOLPH