【11月18日 東方新報】「Tシャツは何度か洗えば、すぐにスカートみたいになっちゃう」「セーターは着る前から毛玉がついている」。

 これらは中国の消費者がSNSでつぶやいた、欧米のファストファッションの製品に対する不満の声だ。

 この声が聞こえたかどうかは不明だが、今年11月、米国を代表するアパレルブランド「ギャップ(Gap)」は、台湾や香港を含む中華圏市場での事業を中国企業に売却すると発表した。買収するのは、Eコマースの代行などを手掛けるIT企業の宝尊電商(Baozun)。宝尊はこれまでもギャップのEコマースを請け負ってきた。買収額は最大で5000万ドル(約69億円)で、2023年上半期までに手続きを終える予定という。

 ギャップが中国市場に参入したのは12年前。当時、首都北京でも王府井(Wangfujing)や西単(Xidan)といった繁華街に次々と店を構え、まるで中国の若者たちに「世界の先端ファッションとはこういうものだ」と教えているかのようだった。

 しかし、近年ではそれらが一つまた一つと閉店し、この夏、人々がわずかに残った店舗で目にしたのは在庫一掃セールだった。

 実は、中国市場からの撤退や事業縮小を模索する海外のファッションブランドはギャップのみではない。スペイン発のファストブランド「ザラ(Zara)」の親会社インディテックス(Inditex)は、2021年初頭、傘下の3ブランド「ベルシュカ(Bershka)」「ストラディバリウス(Stradivarius)」「プル・アンド・ベア(Pull and Bear)」の中国市場での全ての実店舗の閉鎖を決め、さらにこの夏には、オンラインストアでの販売も停止した。事実上、中国市場からの撤退と言えそうだ。スウェーデン発のH&Mも2021年末までの1年間で中国エリアの60店舗を閉鎖、傘下のブランド「モンキ(Monki)」は今年4月に中国市場からの撤退を決めた。

 日本発で中国の消費者に根強い人気を誇るユニクロ(Uniqlo)さえも、今年の中間報告では、中国市場での利益の低下を理由に、133店舗を暫定的に閉鎖したと発表している。

 つまり、外国発のファストファッションが中国市場で苦戦しているのだ。

 その理由は、冒頭に触れたような品質に対する中国の消費者の不満だけではない。

 挙げられるのは、国産ブランドの成長だ。女性ファッションブランドの売り上げに関するあるデータによれば、今やトップ3は、アーバンレヴィヴォ(Urban Revivo)、ユニクロ、MO&Coで、ユニクロ以外の2つは中国発ブランド。ちなみにザラは12位だという。

 海外ファストブランドをしのぐような国産ブランドが多く成長すると共に、天猫(Tmall)などのEコマース上でも無数のブランドが生まれた。これらのブランドは、素早く国内の流行を取り入れ、中国人の体形や肌の色に適したデザインを生む点において既存の海外ブランドを凌駕(りょうが)した。選択肢が増えた今の若者たちは、かつてのように海外ブランドをやみくもに崇拝する意識は低いという。

 さらに、中国ではEコマースに加え、SNSやライブ配信などを通じた販売方法が大きな比重を占めるようになった点も大きい。外国のブランドは、デザインや品質で中国の消費者の要求をうまく反映させられなかった失敗に加え、デジタルマーケティングや、オンライン消費といった急速に変化する分野についていけず、国産ブランドに大きく遅れをとったと考えられるのだ。

 ファションや流行は多彩であるからこそ楽しい。中国の国産ブランドが発展するのは大いに結構だが、一般市民が「これこそが中国式現代化」などと妙な自尊心を膨らませ、外国のファッションやブランドを排斥するようなムードが生まれないように、と願うのは考えすぎだろうか。(c)東方新報/AFPBB News