【11月11日 AFP】ウクライナの首都キーウ北部にある集合住宅で午後6時過ぎに計画停電が始まると、住人のイレン・ロズドブトコさん(60)と夫のイーホル・ジュクさん(70)はそれぞれ、用意していたろうそくとヘッドライトをともし、静かな夜を過ごし始めた。

 ウクライナに侵攻したロシア軍はこの1か月間、エネルギー施設を集中攻撃し、電力網に深刻な打撃を与えた。国営電力会社ウクルエネルゴ(Ukrenergo)は、電力網への負担を軽減し、全面的な停電を避けるため、キーウなどで計画停電を実施している。

 夫妻が住む地域ではこの日、午前0時~4時、午前9時~午後1時、午後6時~10時の計3回、各4時間の計画停電があった。

■「苦悶と無力」

 作家で芸術家のロズドブトコさんはサラダを作りながら、「私は薄暗がりが好き。静かで雰囲気があって、考えを誰にも邪魔されない」と語る。必要なら、ウクライナの伝統料理ボルシチを「目をつぶってでも」作れるという。

 ガスコンロはまだ使用でき、蛇口をひねれば勢いは弱いが水が出る。冬が近づく中、暖房もまだ使えることに感謝しているという。

 室内の照明には、懐中電灯や昔買った装飾用のろうそくを使っている。浴室にはキャンプ用のランタンを置いた。

 科学者のジュクさんにとって、民間施設への攻撃は「ロシア軍の苦悶(くもん)と無力」を示すものだという。ロシア軍はウクライナ軍の反攻を受け苦戦を強いられており、9月には同国北東部で数千平方キロの占領地を失った。

 ジュクさんは「ロシア軍はウクライナ軍を倒せないと分かると、その後ろにいる民間人と戦い始める」と語る。

■冬を耐える決意

 ビタリ・クリチコ(Vitali Klitschko)市長は、ロシアが攻撃を続けた場合、冬を電気や水道、暖房なしで過ごすという「最悪のシナリオ」も想定。住民が集まって暖を取れる場所を市内1000か所以上に設置する予定だ。

 ヘッドライトを頭につけたジュクさんは、これからやってくる厳しい日々を耐える覚悟だ。「今年の冬はもう少し、あるいはかなり大変になるかもしれない。でも、まだ最悪の状況にはなっていない」

 ロズドブトコさんは、部屋の一角に飾ってある手紙を指さすと、感極まった様子を見せた。手紙はフランス南部マルセイユ(Marseille)に避難している孫たちからのもので、こんなメッセージが書かれていた。

「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは。ウクライナの生活はうまくいっていますか? そうじゃないのなら、フランスに来てね。私たちはおじいちゃんとおばあちゃんをとても愛していて、応援しています」 (c)AFP/Emmanuel PEUCHOT