【12月31日 AFP】ヨハン・セバスチャン・バッハ(Johann Sebastian Bach)の「トッカータとフーガ ニ短調(Toccata and Fugue in D minor)」をこれほど荘厳に感じる体験はないだろう。米ニュージャージー州アトランティックシティー(Atlantic City)で、世界最大のオルガンがよみがえりつつある。

 パイプオルガンが製造されたのは、この海辺のリゾートが黄金時代を迎えた1920年代。1944年にハリケーン被害に遭ってから長らく放置されていたが、2004年に修復プロジェクトが立ち上げられた。完全な修復には約1600万ドル(約21億円)かかるとされるが、寄付金額は既に500万ドル(約6億7000万円)集まっている。

 木製の演奏台は小さく見えるが、中には7段の鍵盤が並んでいる。パイプの本数は世界最多の3万3112本。仏パリのノートルダム大聖堂(Notre Dame Cathedral)にある有名なパイプオルガンでも8000本に届かないため、その多さが分かる。

 オルガン奏者、ディラン・デービッド・ショー(Dylan David Shaw)氏(23)は「言葉では言い表せないほどの体験です」と語る。「弦楽器から木管楽器、トランペット、フルート、打楽器、鉄琴、グランドピアノまで、思い付く限りのオーケストラの音を指先で鳴らすことができるのです」

 ミドマー・ロッシュ・オルガン・カンパニー(Midmer-Losh Organ Company)製のオルガンが置かれているアトランティックシティーのボードウォーク・ホール(Boardwalk Hall)は、米国のミスコンテスト「ミス・アメリカ(Miss America)」や1964年の民主党大会、ボクシングの元世界ヘビー級王者マイク・タイソン(Mike Tyson)氏の試合会場となった歴史を持つ。

 元電気技師のディーン・ノーベック(Dean Norbeck)氏は、空気を送り込んでパイプを鳴らすための部分に小さな磁石を根気よく取り付けていた。

 ホールでオルガンを管理しているネイサン・ブライソン(Nathan Bryson)氏は、「パイプが鳴らない原因がなかなか突き止められない時もあるんです」と説明した。

 オルガン奏者のショー氏によると、「50%以上は演奏できる」までになったという。

 ブライソン氏は「この広大な空間を音楽で満たすために」つくられたオルガンだと話し、巨大なパイプオルガンを「サラウンドサウンドの先駆け」と呼んだ。(c)AFP/Andréa BAMBINO