【11月6日 AFP】男子のサッカーW杯(World Cup)で試合を裁く、史上初の女性審判の一人として歴史に名を刻もうとしている山下良美(Yoshimi Yamashita)氏は、「半ば無理やり」に審判の世界に足を踏み入れたと明かした。

 W杯カタール大会(2022 World Cup)に選ばれた主審36人のうち、女性は山下氏とフランスのステファニー・フラパール(Stephanie Frappart)氏、ルワンダのサリマ・ムカンサンガ(Salima Mukansanga)氏の3人。また、同大会の副審には計69人が選出され、うち3人が女性審判となっている。

 今年4月に男子のAFCチャンピオンズリーグ(AFC Champions League 2022)で女性として初めて笛を吹いた山下氏は、翌5月にはW杯の審判員に選ばれ、急成長中のキャリアの中で大きな節目を迎えた。

 36歳の山下氏は、カタール大会の審判員に選ばれて「誇りと責任」を感じたという。

 山下氏が最初に試合でホイッスルを手にしたのは、国際審判員で2019年の女子W杯フランス大会(FIFA Women's World Cup 2019)に審判団として選出された大学の先輩、坊薗真琴(Makoto Bozono)氏の強引な勧めがあったからだという。

 最初は乗り気ではなかったものの、山下氏はこの経験で夢中になったという。

「坊薗さんに半ば無理やり試合に連れていかれたというのが最初のきっかけです。そこからどんどん、1試合やるとこれはやらないといけない、これももっとうまくなりたいと」

 今年8月に日本で初めての女性プロ審判員になった山下氏は、より高いレベルの試合を担当し始めると、「日本の女子サッカーに貢献できるかもしれない」と気づいたという。

 山下氏は2015年に国際審判員に登録。U-17女子W杯(FIFA U-17 Women’s World Cup)では、2016年のヨルダン大会と2018年のウルグアイ大会に派遣された。

 2019年には坊薗氏、手代木直美(Naomi Teshirogi)氏とともに女子W杯の審判団としてシニアレベルにステップアップ。この3氏は同年のAFCカップ(AFC Cup)では男子大会で史上初めて女性だけで審判を務めると、今年のAFCチャンピオンズリーグでも試合を裁いた。

「どの試合に対しても、それぞれの大会とかそれぞれの試合で得た経験を持った上で臨むというのは責任だと思っています」という山下氏。

 W杯の審判に選ばれたことについては、「もちろんそれを自信に変える時もあり、責任として持つこともあり、それをすべて持ってW杯に向かいたいと思います」と話した。

 日本サッカー協会(JFA)とプロフェッショナルレフェリー契約を結ぶ前にはフィットネスインストラクターとして働いていた山下氏が、トレーニングを休むことはめったにないという。

 それでも「本当はアウトドア派ではありません」と強調した山下氏は、テレビを見たり、ジグソーパズルをしたり、ビデオゲームをしたりしてリラックスしているのだという。

 昨年5月にJリーグ史上初の女性主審となった山下氏は、今年9月にはJリーグ1部(J1)で初めて笛を吹いた。

 カタール大会では男女問わず日本人としてただ一人の審判を務める山下氏は、母国のためにもしっかりとした仕事をする「責任」を感じているという。

 女性審判は長い年月をかけて笛を任される権利を獲得したと考えている山下氏は、「仲間たち、先輩方が積み上げてきている信頼がなければ、W杯の機会はないです」と話し、「その信頼を壊してはいけない。その責任は本当に重く持っています。ただその責任を持っていることを、すごくうれしく思っています」と続けた。

 W杯で心に決めている試合は特にないと話す山下氏だが、「大会全体の雰囲気」に刺激を受けているという。

 W杯で試合を裁くことは「夢」であり、「考えることすらできなかった」という山下氏は、「日本人としての誇りと責任を胸に、大会の成功に向けて自分自身のできる最大限の準備をしていきます」と意気込みを口にした。

 映像は6月撮影。(c)AFP/Andrew MCKIRDY