■「崇高な目的」か

 昨年、アイスランドには119か所の血液牧場があった。採血だけを目的に飼育された牝馬は5400頭近くに上り、ここ10年で3倍以上に増えた。

 だが、動画が物議を醸したことで、動物愛護団体の目を気にして事業をやめる農家が出たため、今年は血液牧場の数が減る見通しだ。

 粉末状のPMSGホルモンの欧州最大のメーカーで、年間約170トンの血液を扱うバイオテクノロジー企業イステカ(Isteka)の社長は、「農家はあの動画から、深刻な打撃と衝撃を受けた」と話す。問題事例があることは認めながらも、隠しカメラで撮影されたこの動画では「過度に否定的な描写がなされている」と指摘した。

 この問題は、アイスランド国内でも議論を巻き起こした。同国ではこの事業が1979年から行われているにもかかわらず、国民の多くが動画で初めてこの事実を知ったのだ。

 アイスランド動物福祉協会(Animal Welfare Iceland)の副会長は「これはわれわれの倫理観について考えさせる問題」であり、「単に安い豚肉を安定供給したいがために、家畜用の強壮剤をつくったり、家畜の生殖能力を自然な状態以上に高めたりするのは、崇高な目的とは言えない」との見方を示した。

 反対派は、採血量についても批判している。ある野党議員は「動物への残酷な処遇であり、まさに動物虐待だ」と訴える。何度も禁止を提案してきたが、実現には至っていない。

 とはいえ、8月には規制が厳格化され、向こう3年間にわたって当局が業界を監視し「将来性を評価する」権限が強化された。

 当局は今夏、国内の血液農場すべてを臨検したが「深刻な違反はなかった」と結論付け、閉鎖を命じられた農場はなかった。(c)AFP/Jeremie RICHARD